仮屋かりや)” の例文
父ぎみの今朝のお顔から見て、吉瑞きちずいのように思われたらしい。——はや出御しゅつぎょとあって、仮屋かりやのうちの公卿たちも、あらまし姿を揃えていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斑竹山房とは江戸へ移住するとき、本国田野村字仮屋かりや虎斑竹こはんちくを根こじにして来たからの名である。仲平は今年四十一、お佐代さんは二十八である。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お二人は蚊屋野かやのにお着きになりますと、ごめいめいに別々の仮屋かりやをお立てになって、その中へおとまりになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
馬市の立つというあたりに作られた御仮屋かりや、紫と白との幕、あちこちに巣をかけた商人あきんど、四千人余の群集、そんなものがゴチャゴチャ胸に浮んで来た。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もとは神社の方でも常設の社殿のないものが多く、祭の度毎に仮屋かりやをかけて、こうして忌籠いこもる例が幾らもある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
市街の大半を占めてゐる焼跡には、仮屋かりや建てののみの音が急がしく響き合つて、まだ何処となく物のくすぶ臭気にほひの残つてゐる空気に新らしい木の香が流れてゐた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
実はそれを恐ろしいことに思召して、あの三条の仮屋かりやのような所にしばらくお住いになったのでございます。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
率いまして、伊賀路より、たった今しがた、白布の郷へ入りまして、農家に分宿いたしましたり、仮屋かりやを建てましたり、幕屋をつくりまして、宿しゅくしましてござります
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
仮屋かりや造りの小屋の、坪庭へはいり、縁側へあがると、茂庭周防が待っていた。周防定元さだもとは甲斐より三つ若い、背丈も甲斐より少し低いが、肉づきはよく、躯はたくましい。
ル・ゴフさんの処方で病気がなほつたので再びアンデパンダンの絵を観に行つた。セエヌ河の下流の左岸の空地くうちに細長い粗末な仮屋かりやを建てて千七百点からの出品がならべてある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
こゝは此度新に建てし長方形の仮屋かりやにて二列にテーブルを据ゑ、菓子のたふ柿林檎の山、小豚の丸煮まるに、魚、鳥の丸煮など、かず/\の珍味を並べ、テーブルの向ふには給仕ありて、客の為に皿を渡し
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
仮屋かりや呼子よぶこ、及び唐房とうばう湾の如きは、その例なり。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
『もう、二十日はつかあまり、仮屋かりやに寝かしてありますから、体もすっかりなおったはずです。今夜あたりき出して、お調べになっては何うですな』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
建築技術の進歩もまたこれを促している。住居の変化の主要なるものは、一つには客来が頻繁になって、そのために毎回仮屋かりやを建てることができず、できるだけ主屋おもやと合併しようとしたことである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
仮屋かりやまくをしぼって、陣をでた木隠龍太郎は、みずから「項羽こうう」と名づけた黒鹿毛くろかげ駿馬しゅんめにまたがり、雨ヶ岳の山麓さんろくから文字もんじに北へむかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸大名の仮屋かりやは、袖矢来の東西にわかれ、各家それぞれの紋幕が、紋づくしでも見るように、はためきを競ッていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やっと、夜が明けてから、仮屋かりやのすみで、すこし眠ったが、朝の兵糧ひょうろうを分けてもらうと、逃げることに、心をきめた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武者たちは、仮屋かりや仮屋で、いまがおそい夜食だった。賜酒ししゅはあったが、きのうから、飲むひまはなかったのだ。
「ともかく、兵糧でも分けてやって、すこし仮屋かりやで休ませておけ。ひょッとしたら、あわれな気狂きちがい娘かもしれん。どうも、いうことが、いちいちにおちんわい」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この寒いのに、仮屋かりやからずっと離れた山鼻の一端に、床几しょうぎをおかせて、腰をかけていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もなく、上部八風斎かんべはっぷうさいはあなたの仮屋かりやから、忍剣にんけん小文治こぶんじにともなわれてそこへきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは、陣屋というもわびしい、武田伊那丸たけだいなまるのいるあまたけ仮屋かりやである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おやすいこと。てまえの仮屋かりやまでお越しくだされば、如何ようにも」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お仮屋かりやの柱をおかし下さい。さもなくては抜けません」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより仮屋かりや一つない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)