介錯かいしゃく)” の例文
「いざ、介錯かいしゃく下されい、御配慮によって、万事心残りなく取り置きました」といいながら、左の腹に静かに匕首あいくちの切っ先を含ませた。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのときかねて介錯かいしゃくを頼まれていた関小平次が来た。姑はよめを呼んだ。よめが黙って手をついて機嫌を伺っていると、姑が言った。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「おお、きょうのような吉日きちじつはまたとない。いかにもこの場できゃつを成敗せいばいいたそう、その介錯かいしゃくもそちに命じる! ぬかるな!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竜之助は黙って、自分だけは遺書かきおきもしなければ辞世もつくらず、介錯かいしゃくをしてやろうとも言わず、もとより頼もうと言う者もありませんでした。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はひろげたままの手紙を膝に置いて、くびの骨の折れるほど低く、頭を垂れた。それは切腹をした者が、介錯かいしゃくの刃を待つ姿勢そのままにみえた。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこで、介錯かいしゃくに立った水野の家来吉田弥三左衛門やそうざえもんが、止むを得ずうしろからその首をうち落した。うち落したと云っても、のどの皮一重ひとえはのこっている。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
父も二人を並べて置いて順々に自分で介錯かいしゃくをする気であった。ところが母が生憎あいにく祭で知己ちかづきうちへ呼ばれて留守である。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、その一方では近藤六郎兵衛の女房がお岩を介錯かいしゃくして出て来たが、明るい方を背にするようにして坐らしたうえに、顔も斜に向けさしてあった。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さらにその長子岡崎三郎信康おかざきさぶろうのぶやすなる者が、父家康の怒りにあって自刃したとき、これを介錯かいしゃくした天方山城守やましろのかみの一刀がやはり村正の刀だったというところから
綸を拇指と示指の間に受け、船底にかき込まるるを防ぎ、右手めてに玉網の柄を執りて、介錯かいしゃくの用意全く成れり。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
「敵か味方か存ぜねど、われは村上蔵人くらんど義隆、敵ならば首級くびとって功名にせよ! 味方ならば介錯かいしゃくたのむ!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これらはただ礼式に泣くのでなくして、真実に長く育った父母のもとを去るに忍びないで泣きますので、その場合には朋友らが介錯かいしゃくをして強いて馬に乗せるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
お小夜の母も、つい去年までは病躯を支えて二人の子供を介錯かいしゃくした。夫が駄賃だちんに行っておそく帰ってくる。
新万葉物語 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「おどろくほどのことではない。それについて、たのみたいことがある。おれは切腹するが、どうか介錯かいしゃくしてくれい。その前に、始終の始末を見ておいてもらおうか」
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それで斯う「最後の頼みだから介錯かいしゃくしてくれ、某の首を誰にも見せずに葬むってくれ」
(どうせ、魔のカーヴだ。死にたい奴は死ね、俺は、介錯かいしゃくしてやるようなもんだ)
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
介錯かいしゃくを——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
見るにたえず、惣蔵はすぐ介錯かいしゃくした。そしてわが刃に落した主君の首級にとびついて、それを抱えると男泣きに号泣した。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三斎公その時死罪を顧みずして帰参候は殊勝なりと仰せられ候て、助命遊ばされ候。伝兵衛はこの恩義を思そろて、切腹いたし候。介錯かいしゃく磯田いそだ十郎に候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
……もう為方しかたがないから、では此処で腹を切ってくれ、私が介錯かいしゃくするからと云うと、それでは、近藤殿から、斬れと云われたお前の役目が立つまいと云うのだ。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なさい、兵馬が介錯かいしゃくをして上げる、介錯した後にはこの兵馬も、そのままではおられませぬ
介錯かいしゃくした者は誰であったか、そんな名前もげてないし、夫婦の首や屍骸についても、焼け跡をくまなく捜索したにも拘わらず、全く灰燼かいじんに帰したと見えて何も出て来なかったと記している。
其処そこには囚獄奉行をはじめ卑しい獄卒まで見ているのだ。介錯かいしゃくの者は首斬り役人ではなく特に某藩の士を頼んである。たとえばどのように無念な死であろうと、左内が武士なら覚悟すべき場合である。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「まだ未練をいいおるか。エエ、もうおのれのような奴、子でない、母でない! ……。女の首は斬れまいが、母の首なら斬れるであろう。介錯かいしゃくしやい」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五十三歳である。藤本猪左衛門いざえもん介錯かいしゃくした。大塚は百五十石取りの横目役よこめやくである。四月二十六日に切腹した。介錯は池田八左衛門であった。内藤がことは前に言った。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「だから、生きて、介錯かいしゃくを頼むとは言わない、仏頂寺の最期を、おとなしく、ちゃんと見届けていてもらいたいのだ。さあ、もう覚悟はきまった、放せ、放せ、離れていろやい、丸山勇仙——」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
介錯かいしゃくをしてくれとでもいうんですか」
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、促すので、五重へ駈け上って、お市の方と居を共にし、まずその死を見て後、自身は文荷斎の介錯かいしゃくのもとに、腹掻っ切って果てたもののようである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平七は二十三歳にて切腹し、小姓こしょう磯部長五郎介錯かいしゃくいたし候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「俺は腹を切る、友達甲斐ともだちがい介錯かいしゃくを頼む」
長閑斎は、さきに甥の光春を介錯かいしゃくした光春所持の刀を帯していた。首級はその品と共に、やがて、堀秀政の手から三井寺へ送られ、秀吉の実検に供えられた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主命のままに、鎌田新介は、涙をふるって信忠の介錯かいしゃくをつとめて、その死骸を、板縁の下へかくした。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いつなと、心に懸ることもない、……それにあるは、岩見か少斎か、はや介錯かいしゃくをしてたまわれ」
六郎左とやら、源中納言の介錯かいしゃくは、身に過ぎるぞ。ありがたいと思うてせよ。仕損じるな
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええもう、止めだてしやるな。それよりはなぜ、介錯かいしゃくするといわぬか」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして甥の光春に切腹をすすめて、その介錯かいしゃくをつとめ、さらにまた、三宅周防守らの将士が、すべて自害し終ってから、矢倉下の火薬に点火するという——最後の一役までもしていたのであった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……死にたい。岐阜どの、わしは、わしを、か、介錯かいしゃくして」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「五郎兵衛、ここへ登って来い。——介錯かいしゃくに」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、首をさしのべ、ひとみ介錯かいしゃくを求めた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「新介。介錯かいしゃくをいたせ」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
介錯かいしゃくをしてやれ」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(要らざる介錯かいしゃく
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)