今昔こんじゃく)” の例文
播州のむろでも、遊女たちを教化している。当時の遊女たちにも、今昔こんじゃくのない共通の女の悩みや反省があったことにはちがいない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天竺てんじく南蛮の今昔こんじゃくを、たなごころにてもゆびさすように」したので、「シメオン伊留満いるまんはもとより、上人しょうにん御自身さえ舌を捲かれたそうでござる。」
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
世継よつぎ物語には「わづか二十ばかりにてぞおはしける」とあり、今昔こんじゃくには「二十に餘る程」とあるので、二十一二歳であったかと思える。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
若い元気な助手を十数人も使って活溌かっぱつな研究生活を続けておられた姿を思ってみると、誠に今昔こんじゃくの感にたえないものがある。
昨今は到るところで満洲の話が出るので、わたしも在満当時のむかしが思い出されて、いわゆる今昔こんじゃくの感が無いでもない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
古きは『今昔こんじゃく物語』、『宇治拾遺うじしゅうい』などより、天明ぶりの黄表紙きびょうし類など、種々思ひ出して、立案の助けとなせしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
いにしえのしず苧環おだまきり返して、さすがに今更今昔こんじゃくの感にえざるもののごとくれと我が額に手を加えたが、すぐにその手を伸して更に一盃を傾けた。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今昔こんじゃくの感そぞろにきて、幼児の時や、友達の事など夢の如くまぼろしの如く、はては走馬燈まわりあんどんの如くにぞ胸にう。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
此処ここならば今昔こんじゃくの思いに逢い語らうこともできたのに、心も知らずに去って行ったことが悲しく身に応え、生絹はなつかしげに闇のあいだに眼を永くとどめた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
しかしこのような剽軽ひょうきん変化へんげは、二度と再び出るものではあるまいと当時考えていたから、このたび再び出現したというのをきいては、まことに今昔こんじゃくの感に堪えない。
しゃもじ(杓子) (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
今昔こんじゃくの感——そういう在来ありきたりの言葉で一番よく現せる情緒が自然と彼の胸にいた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
燈檠とうけいを呼び、雪中松柏を高吟し、男児死すのみを激誦し、その家人を驚かし、その四隣をおそれしめたる、子爵品川弥次郎の徒をして、回想せしめば、まこと今昔こんじゃくの感に堪えざるものあらん。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それが天下晴れて教室をくすべながら旧師と語るのだから今昔こんじゃくの感がある。
母校復興 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
陛下をめぐる人々からそんなお噂も出たりするほど、ここは昔日せきじつの皇居ではなかった。まことに今昔こんじゃくの感がふかい。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一度などは御二人で、私を御側近く御呼びよせなさりながら、今昔こんじゃくの移り変りを話せと申す御意もございました。確か、その時の事でございましょう。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
電子に波動性があるというまるで夢のような話が、その後二十年ばかりの間に、原子爆弾にまで発展したのである。まさ今昔こんじゃくの感にたえないものがある。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
侍従の君のことが原因で病死したと云う今昔こんじゃくの記事に従えば、何となく平中の方が時平しへいより先に死んだような感じを受けるが、前掲の後撰集の詞書ことばがきなどを読むと
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
源氏以外の文学及びまた更に下っての今昔こんじゃく宇治うじ著聞集ちょもんじゅう等の雑書に就いてうかがったら、如何にこの時代が、魔法ではなくとも少くとも魔法くさいことを信受していたかが知られる。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
窓際まどぎわを枕に寝ていたので、空は蚊帳越にも見えた。ためしに赤いすそから、頭だけ出してながめると星がきらきらと光った。自分はこんな事をする間にも、下にいる岡田夫婦の今昔こんじゃくは忘れなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの今昔こんじゃく物語や宇治拾遺うじしゅうい物語に出ている有名な逸話は、多分その頃の出来事だったのであろう。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
時々その本をのぞいてみると、今昔こんじゃくの感にたえないくらい子供向きの良い本が沢山出ているようである。しかしああいう良い本ばかりでは少し可哀そうな気がしないでもない。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「僕はそいつを見せつけられた時には、実際今昔こんじゃくの感に堪えなかったね。——」
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)