人体にんてい)” の例文
旧字:人體
これが真新しいので、ざっと、年よりはわかく見える、そのかわりどことなく人体にんていに貫目のないのが、吃驚びっくりした息もつかず、声を継いで
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とにかくしかしそれにしてもと、あんまりお帽子のひしがたが神経質にまあ一寸ちょっと詩人のやうに鋭くとがっていささかご人体にんていにかゝはりますが
電車 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
しかも、斬られたこれらの人体にんていを見ると、後ろからついて来ている送りよた者の種類とは違って、いずれも、れっきとした武士姿である。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「上杉家は、謙信以来、士風正しく、義理明白な国がらではあったが、当主の景勝も、まことに律義りちぎ人体にんていとみえる……」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遍路が村にはいってきて、この村に善根の宿をする家はないか、とたずねると、村人はすぐに君子の家を教えた。だから種々様々な人体にんていの遍路が泊まっていった。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
面倒だから、いっそさよう仕ろうか、敵は大勢の事ではあるし、ことにはあまりこの辺には見馴れぬ人体にんていである。口嘴くちばしおつとんがって何だか天狗てんぐもうのようだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何だか誠に風の悪さうな人体にんていで御座いましたが、明日みようんち参りましたら通しませうで御座いますか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
幸子は何と云う訳もなくはっとして、その連れの男の人体にんていを問いただして見たかったのであるが、桑山夫人の前があるので、ああそう、と、わざと軽く聞き流してしまった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「眼が付かいで何としょう。縦から見ても横から見ても土地侍じざむらいとは見えぬ人体にんていじゃもん」
関東防禦の儀は、しかるべき人体にんてい相選み申し付けられ候よう、御沙汰ごさたに候事。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よほどの大人物か、さもなければ浮世を茶にしたとぼけた人体にんていに相違ない。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それに本多家、遠藤家、平岡家、鵜殿家の出役しゅつやくがあって、先ず三人の人体にんてい、衣類、持物、手創てきず有無ゆうむを取り調べた。創は誰も負っていない。次に永井、久保田両かち目附に当てた口書を取った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
文「その人体にんていはどんな者でありました」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だが、かぶっている笠をとりもしないで、なたを腰にさしながら、小腰をかがめている人体にんていは、思ったほど老人ではありません。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だれがてめえのような女乞食おんなこじきのビタせんを、ったりいたりするバカがあるものか、ものをぬすまれましたという人体にんていは、もう少しなりのきれいな人柄ひとがらのいうこッた
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや/\、めくらを装って油断をさせ、此方の人体にんていを見とゞける所存ではないのか。何処どこから来たものか知れないけれども、めくらが一人でこんな時刻にこんな所へ来られるであろうか。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
時々、あの辺で今まで見た事の無い婆様ばあさんに逢うものがございますが、何でも安達あだちが原の一ツ婆々ばばという、それはそれは凄い人体にんていだそうで、これは多分山猫の妖精ばけものだろうという風説うわさでな。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「左様でございます、破落戸ならずものか、賭博打ばくちうちのような人体にんていでもあり、口の利き方はお武家でございました、大方、浪人の食詰め者でございましょう」
道庵と昔話の相手をしたその僧形そうぎょう人体にんていにも似ているようなのが、力を合わせて、必死と米友を取押えにかかります。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「へえ、鳥沢の粂、そんな者があるにはあるんでございますが、お話を申し上げるような人体にんていではございません」
いいかね、今の徳川家には、ああいって人斬り商売をするような人体にんていがないんでげす、ところで、命知らずの無頼者を、金で買い集めてやらせるんでげす。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで米友が立止まって、これこれこういう人体にんていじんが通らなかったかということを、米友としてはかなり気を落ちつけたつもりで尋ねると、物売屋の女房が
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この大の男は、貧窮組とは非常に趣を異にして、その骨格のたくましいところに、小倉こくらの袴に朱鞘しゅざやを横たえた風采が、不得要領の貧窮組に見らるべき人体にんていではありません。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といってこの六尺豊かの髯面の大男、そのものの人体にんていがまた甚だ疑問で、相手を向うに廻して荒れていなければ、これが無頼漢ぶらいかんの仲間の兄貴株であろうと見るに相違ない。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その、岸へ飛びついて来た人体にんていを見ると、野侍のようなのがあり、安直な長脇差風のもあれば、三下のぶしょく渡世もあり、相撲あがりもあり、三ぴんもあり、折助風なのもある。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)