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九月
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くぐわつ
九月の
二十日前後に、からりと
爽かにほの
暖かに
晴上つた
朝、
同じ
方角から
同じ
方角へ、
紅舷銀翼の
小さな
船を
操りつゝ、
碧瑠璃の
空をきら/\きら/\と
幾千萬艘。
一昨年の
秋九月——
私は
不心得で、
日記と
言ふものを
認めた
事がないので
幾日だか
日は
覺えて
居ないが——
彼岸前だつただけは
確だから、
十五日から
二十日頃までの
事である。
風の
模樣は……まあ
何だらうと、
此弱蟲が
悄々と、
少々ぐらつく
欄干に
凭りかゝると、
島田がすつと
立つて……
九月初旬でまだ
浴衣だつた、
袖を
掻い
込むで、
白い
手を
海の
上へさしのべた。