万端ばんたん)” の例文
旧字:萬端
阿闍利さまは喜んでわたくしに万端ばんたんのことをおたのみになりました。しかし童子は細いこえで、けなげにもこういって頭をふりました。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
家事に口を出し過ぎる夫に困ったら、一週間くらいそら病気をして、夫に家事万端ばんたんの世話をやかせ、負担にえない経験をさせたらどうですか。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「さあこれで万端ばんたんととのった。……進君、もう一度宇宙艇のなかを探してくれたまえ。万一密航者などがコッソリ隠れていると困るからネ……」
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その士格の売主うりぬしは、小普請目見得格こぶしんめみえかく小牧甚三郎こまきじんざぶろうという御家人ごけにん、一人娘があるから、むこの形式をもって継いでくれれば、万端ばんたん都合つごうがいいという。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
ましてこれから、知らねえ土地を遍歴へめぐって、上州の国定忠次で御座いと云って歩くには、駈引かけひき万端ばんたんの軍師がついていねえ事には、どうにもならねえのだ。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
二十面相は早くから万端ばんたんの準備をととのえて、この絶好の機会を待っていたのです。家屋のとりこわしは、たしか十二月五日からはじまったのでしたね。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
女中にされた私は、家事万端ばんたんをしなければならなかった。冬の寒中に米もとげば、手拭てぬぐいかむってオンドルの下に火もたいた。ランプのホヤきから、便所の拭き掃除までもした。
万端ばんたんなにくれとなくてはずを決めて間もなく女はいそいそとして波間へ消えて行った。
それから早速さっそく自分もけつけて葬礼の式に加わって、まず無事に万端ばんたん終ったのである。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
留守中万端ばんたんの心得をいって聞かせ、今や、その旅行の日程に苦心中であるが、東海道筋は先年、伊勢参りの時に往復しているから、今度はひとつ趣を変えて、甲州街道を取ろうか
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
くなる前には、自身の履歴、形見分けの目録、後の処分の事まで明細に書きのこし、あらうが如き貧しさの中から葬式万端ばんたんの費用を払うて余剰あまりある程の貯蓄をして置いた事が後で分かりました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
勝麟太郎かつりんたろうと云う人は艦長木村の次に居て指揮官であるが、至極しごく船に弱い人で、航海中は病人同様、自分の部屋の外に出ることは出来なかったが、着港になれば指揮官の職として万端ばんたん差図さしずする中に
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
万端ばんたんの手配をおえ、至急救助船をおくる——
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
文麻呂 用意万端ばんたんすでにととのった!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
ドイツ軍を圧迫し、本土奪還ほんどだっかんくわだてようとし、そのときに役立つようにと、本土の外の重要地点において用意万端ばんたんととのえておいたというわけだ。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「よ、よろしゅうございますとも。決して、この上ご恩人のだんなへ、ご迷惑はおかけいたしません。けれど、どうぞ万端ばんたんのこと、この婆の身の行くすえは」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてふみ子の死体は、別荘の方で葬儀そうぎ万端ばんたんを扱うこととし、カフェ・ネオンはいつものように昼間から、桃色の薄暗い電灯がともっていたのである。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
嫁入り道具万端ばんたん持たせて、一しょにさせたという事には、むりがあったにちがいない。
「とにかく金よ、お前も長途ちょうとの旅行で疲れたろう。この寝室を貸してあげるから、ゆっくりひと寝入りしなさい。その間に、われわれは万端ばんたんの用意をととのえることにするから」
案内はこの家の裏に夕刻姿をみせた例の屑屋が万端ばんたんみこんでいる様子。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
服の或る部分にしまいこんだりして万端ばんたんの手配を終ってしまったのであった。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
下役や中間ちゅうげんをさしずして、二刻ふたときほどで、万端ばんたんの公務をすました。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盗聴の用意は万端ばんたんできあがった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)