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りよきやく
隣に
居た
其の
旅客は、
何處から
乘合せたのか
彼はそれさへ
知らぬ。
其の
上、
雙方とも、もの
思ひに
耽つて、一
度も
言葉は
交さなかつたのである。
昔、
歐米の
旅客が
日本へ
來て、
地震のおほいのにおどろくと
同時に、
日本の
家屋が、こと/″\く
軟弱なる
木造であつて、しかも
高層建築のないのを
見て
まさか
仏蘭西人は
是等の放逸な歓楽を
以て外国の
旅客を
巴里に招致しようとするのでもありますまい。
「はゝあ、」と
歎息するやうに
云つた
時の、
旅客の
面色も
四邊の
光景も
陰々たるものであつた。
是等の
賤劣なる婦人と交際する男子を
仏蘭西の道徳が排斥するのは日本の其れと同じであらう。
而して自分の驚く事は
其等の娼婦の需用者が
概ね英米
其他の諸外国より
来れる
旅客である事である。
五
分間停車と
聞いて、
昇降口を、
峠の
棧橋のやうな、
雲に
近い、
夕月のしら/″\とあるプラツトフオームへ
下りた
一人旅の
旅客が、
恍惚とした
顏をして
訪ねた
時、
立會せた
驛員は、……
恁う
答へた。