頬桁ほおげた)” の例文
その朝、態度がけしからんと云って、一青年の頬桁ほおげたを張り飛ばした教官は、何かまだ弾む気持を持てあましているようであった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
何かのはずみで、わしの頬桁ほおげたを、それもあれの面前で、なぐりつけやがったのだ、すると、あの牝羊みたいな女が、この頬桁一件のために
頬桁ほおげたへ両手をぴったり、慌てて目金の柄を、鼻筋へ揉込もみこむと、睫毛まつげおさえ込んで、驚いて、指の尖をくぐらして、まぶたこすって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「フーム。そんな下等な奴だったのかい、アイツは……そんならモット手非道てひど頬桁ほおげたをブチ壊してやれあよかった」
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
姿は見えないがひどくなじられながら、頬桁ほおげたでも二つ三つ張り飛ばされているらしい。間もなく許されて出るや、彼は息せき切って飛んで来ながら叫んだ。
親方コブセ (新字新仮名) / 金史良(著)
金蔵破りのほうはいっさい心配はいらぬと大仰おおぎょう頬桁ほおげたをたたいておったのを、わしはたしかにこの耳で聞いたぞ。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「このしりがるのすべたども」女たちなら赤鬼はそう云う、「おとこの匂いにのぼせあがって頬桁ほおげたばかり叩いていると、大川へ突っこんでけつを洗わせるぞ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
越後屋の番頭の五郎次は、したたか浅吉に頬桁ほおげたを殴られて、キョトンとして両掌を挙げました。
それは、お駒ちゃんが、火のような自分の感情の中で、磯五の頬桁ほおげたへ手を飛ばしたのだった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けだものめ、口先ばかり達者で、腕力ちからも無けりゃ智慧もねエ、ざまア見やがれ、オイ、閻魔ッ、今頬桁ほおげた叩きやがった餓鬼共ア、グズグズ言わさず——見せしめの為だ——早速片付ちまいねエ」
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
お島は血走ったような目一杯に、涙をためて、肉厚な自分の頬桁ほおげたを、厚い平手で打返さないではおかない小野田にってかかった。猛烈な立ちまわりが、二人のあいだに始まった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼は手をあげて鋸屋の頬桁ほおげたをなぐりつけた。足をあげてその腰骨を蹴りつけた。何か大ごえにわめいていた。前後を考える余裕もない。ただただ、目をさましてくれろと願ったのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
無気味ぶきびにゲタと笑いかけて其儘固まって了ったらしい頬桁ほおげたの、その厭らしさ浅ましさ。随分髑髏されこうべを扱って人頭の標本を製した覚もあるおれではあるが、ついぞ此様こんなのに出逢ったことがない。
と同時に、閑子の立場にも立たねばならない。しかし自分が閑子だったら……。はげしい思いが胸にたぎる。あのときミネは、思うさま悠吉の頬桁ほおげたをひっぱたいた。ぱんぱんとはげしく頬が鳴った。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「………」自分の拳固が彼女の頬桁ほおげたに飛んだ。……
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
刑事の右手が飛んで為吉の頬桁ほおげたを打った。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
しぶきが頬桁ほおげたなぐり、水が手足をぎとろうとする、刻々に苦しくなってゆく波に、ふと仄明ほのあかりにただよっているボートが映る。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
だって何程いつかばちのこともあるめえ。と落着く八蔵。得三はこうべを振り、いや、ほかの奴と違う。ありゃお前、倉瀬泰助というて有名な探偵だ。見ろ、あの頬桁ほおげたきずあとを。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ついでイワン・フョードロヴィッチとアリョーシャのめんどうを見た、そのおかげで頬桁ほおげたを一つ見舞われたような始末だが、しかしこんなことは皆、もう前に話しておいた。
銭形平次は立ち上がると、いきなり平手で銅六の頬桁ほおげたを一つ喰らわせたのです。「平次が縄付きをつ——」こんな事があり得るでしょうか、ガラッ八は眼の前で行われた奇蹟に仰天するばかりです。
「その頬桁ほおげた、忘れるな、行くぞ‼」
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ははははおもしろい、うぬ! 嫌われて何がおもしろい。畜生、」と自らあざけって、くさみを仕損ったように眉をひそめ、口をゆがめて頬桁ほおげたをびっしゃり平手でくらわし
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『そうら、ここからだ!』とどなりざま、猛烈に教え子の頬桁ほおげたをなぐりつけた。子供は黙ってその折檻をこらえていたが、またもや幾日かのあいだ隅っこへ引っこんでしまった。
振り返った鉄のこぶしが、思い切りガラッ八の頬桁ほおげたに鳴ります。