雑物ぞうもつ)” の例文
旧字:雜物
それよりも水底すいてい雑物ぞうもつの間に、何か舟の仲間への御土産になる様な品物が落ちていないかと、息の続く限り、泥の間を泳ぎ廻っていた。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
手を叩いて女中を呼び、「おいねえさん、銚子ちょうしの代りを……熱く頼むよ。それから間鴨あいをもう二人前、雑物ぞうもつを交ぜてね」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
モイセイカは今日きょう院長いんちょうのいるために、ニキタが遠慮えんりょしてなに取返とりかえさぬので、もらって雑物ぞうもつを、自分じぶん寝台ねだいうえあらざらひろげて、一つ一つならはじめる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
九月二十一日、就中なかんずく土一揆入京中きょうちゅうにらんにゅうすしかして土蔵其他家々に令乱入らんにゅうして雑物ぞうもつ取る。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その次はどうするかと思うと主人のつむぎの上着を大風呂敷のようにひろげてこれに細君の帯と主人の羽織と繻絆じゅばんとその他あらゆる雑物ぞうもつを奇麗に畳んでくるみ込む。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家内には新宿の停車場前から鶏肉だの雑物ぞうもつだのを買って来て食わせた。この俗にいう鳥目とりめもとの通り見えるように成るまでには、それから二月ばかり掛かった。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その他はごた/\した雑物ぞうもつばかり。覚えて居るのは大雅堂たいがどう山陽さんよう。刀は天正祐定てんしょうすけさだ二尺五寸拵付こしらえつきく出来たもので四両。ソレカラ蔵書だ。中津の人で買う者はありはせぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こいつア失策どじをくんだが、伊香保へ残した荷物を取りにく証拠の手紙が有るから、是れを持って往けば先方むこうでも雑物ぞうもつを渡すにちげえねえと思うんだ、少しばかりの仕事だけれども
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
(どうだ、お前ここにあるものを知ってるかい。)とお神さんは、その筵の上にあるものを、ゆびさしをして見せますので、私は恐々こわごわのぞきますと、何だかいやな匂のする、色々な雑物ぞうもつがございましたの。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悲劇マクベスの妖婆ようばなべの中に天下の雑物ぞうもつさらい込んだ。石の影に三十日みそかの毒を人知れず吹くよるひきと、燃ゆる腹を黒きかく蠑螈いもりきもと、蛇のまなこ蝙蝠かわほりの爪と、——鍋はぐらぐらと煮える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家に残るものは無用の雑物ぞうもつ、身に残るものは奢侈しゃしの習慣のみ。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)