隠元いんげん)” の例文
旧字:隱元
この支那の椿は昔隠元いんげん禅師が帰化した時分に日本へ渡り来って今諸処にこれを見得るが、吾人はそれをチャンチンと呼んでいる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ところが、黄檗おうばくの方の坊さんはと見ますと、これは隠元いんげんにしましても、木庵もくあんにしましても、いずれも優美さの点では劣ります。
黄檗わうばく隠元いんげんが日本へやつて来た折、第一に払子ほつすを受けたのは、この独照だつたといふからには、満更まんざらの男では無かつたらしい。
なん坪太郎つぼたろうと名づけ、鍾愛しょうあい此上無かりしが、此男子なんし、生得商売あきないの道を好まず、いとけなき時より宇治黄檗おうばくの道人、隠元いんげん禅師に参じて学才人に超えたり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
豌豆えんどう隠元いんげんは畑に数珠じゅずりでも、もいでて食うひまは無い。如才じょさいない東京場末の煮豆屋にまめやりんを鳴らして来る。飯の代りにきびの餅で済ます日もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
想うに独立は寛文中九州から師隠元いんげんを黄檗山にせいしにのぼる途中でじゃくしたらしいから、江戸には墓はなかっただろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
野菜は夏がよいので、茄子なす隠元いんげんなど、どちらも好まれますが、こと豌豆えんどうをお食べになるのが見ものでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
毛ば立った皮からむき出た牛蒡ごぼうの種の表面には、蒔絵に似た模様が巧緻な雲形の線を入れ、蝋燭豆のとろりと白い肌の傍に、隠元いんげんが黒黒とした光沢で並んでいる。
隠元いんげん藤豆ふぢまめたで茘枝れいし唐辛たうがらし、所帯のたしのゝしりたまひそ、苗売の若衆一々名に花を添へていふにこそ、北海道の花茘枝、鷹の爪の唐辛、千成せんなりの酸漿ほうづき、蔓なし隠元、よしあしの大蓼
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
余は書においては皆無鑒識かいむかんしきのない男だが、平生から、黄檗おうばく高泉和尚こうせんおしょう筆致ひっちを愛している。隠元いんげん即非そくひ木庵もくあんもそれぞれに面白味はあるが、高泉こうせんの字が一番蒼勁そうけいでしかも雅馴がじゅんである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
隠元いんげんとご飯が、ちゃんとできているといったぐあい……よごれた食器を、皿洗い機に入れておくと、ひとりでに皿が洗えて、いつでも使えるようにきれいになるし、コックをひねると
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
宇治の黄檗山おうばくさん万福寺は隠元いんげんの創建にかかる寺だが、隠元によれば、寺院建築の要諦は荘厳ということで、信者の俗心を高めるところの形式をととのえていなければならぬと言っていたそうである。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
隠元いんげんの八十一歳のふでといふ老いしひじりおもしおもほゆ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
枝豆、隠元いんげん、ささぎ豆
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ぜんまいや、稀にわらびも立つが、滅多に見かえる者も無い。八十八夜だ。其れ茶もまねばならぬ。茶は大抵たいてい葉のまゝで売るのだ。隠元いんげん玉蜀黍とうもろこし、大豆もかねばならぬ。降って来そうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
目籠めかご背負せおって茄子なす隠元いんげん収穫しゅうかくにも往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)