しろかね)” の例文
紫に描いた。すべてがしろかねの中からえる。銀の中に咲く。落つるも銀の中と思わせるほどに描いた。——花は虞美人草ぐびじんそうである。落款らっかん抱一ほういつである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その歌は數千のしろかねの鈴ひとしく鳴りて、柔なる調子の變化きはまりなきが如く、これを聞くもの皆頭を擧げて、姫が目よりみなぎり出づる喜をおのが胸に吸ひたり。
さてもこのみのくまでに上手じやうずなるか、たゞしは此人このひとひし果報くわはうか、しろかね平打ひらうち一つに鴇色ときいろぶさの根掛ねがけむすびしを、いうにうつくしく似合にあたまへりとれば、束髮そくはつさしのはな一輪いちりん中々なか/\あいらしく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
登りつむればここは高台の見晴らし広く大空澄み渡る日は遠方おちかた山影さんえいあざやかに、国境くにざかいを限る山脈林の上を走りて見えつ隠れつす、冬の朝、霜寒きころ、しろかねの鎖の末はかすかなる空に消えゆく雪の峰など
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
こゝろをつなぐしろかね
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
裁縫しごとの手をめて、火熨に逡巡ためらっていた糸子は、入子菱いりこびしかがった指抜をいて、鵇色ときいろしろかねの雨を刺す針差はりさしを裏に、如鱗木じょりんもくの塗美くしきふたをはたと落した。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雲の色は天と同じくあをかりき。四邊せきとして音響なく、天地皆墓穴の靜けさを現ず。われは寒氣の骨に徹するを覺えたり。われはしづかに頭をもたげたり。我衣は青き火の如く、我手は磨けるしろかねの如し。
しろかねうてなも碎け
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
裏は一面の鍍金ときんに、しろかねえたる上を、花やかにぱっと流す。淋しき女は見事だと思う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)