都人みやこびと)” の例文
ふと、寝がえりを打つと、すぐ自分の鼻の先に、撫子なでしこに似た真っ赤な花が咲いていた。それは、都人みやこびとの彼には、名も知れない花だった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ぼくはこの地にかつて平安朝の無数の都人みやこびとやら、白河、鳥羽の諸帝がいくたびも行幸みゆきされた世代の“昔の顔”を一つ見つけ出した。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし今兄を、東京の市中でも歩かせようものなら、浮薄な都人みやこびとからはたちまち田舎ッペイとして、軽蔑されたり顰蹙ひんしゅくされてしまうでしょう。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
犬の声があまりに激しいので、宵寝の都人みやこびとも夢をおどろかされたらしい。路ばたの小さい商人店あきうどみせでは細目に戸をあけた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夜明けの空は十二分に霞んで、山の鳥声がどこでくとなしに多く聞こえてきた。都人みやこびとには名のわかりにくい木や草の花が多く咲き多く地に散っていた。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
が、流人るにんとは云うものの、おれたちは皆都人みやこびとじゃ。辺土へんどの民はいつの世にも、都人と見れば頭を下げる。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
沢は、駕籠かごに乗つて蔵屋に宿つた病人らしい其と言ひ、鍵屋に此の思ひがけない都人みやこびとを見て、つい聞知ききしらずに居た、此の山には温泉いでゆなどあつて、それで逗留をして居るのであらう。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
よしや深山みやまがくれでも天眞てんしんはないろ都人みやこびとゆかしがらする道理だうりなれば、このうへは優美ゆうびせいをやしなつてとくをみがくやうをしへ給へ、此地このちたりとてからさつぱり談合だんかうひざにもるまじきが
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
じめなればさてこそ都人みやこびとの目に珍しく賞したるならん東より西を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
つゝなれし菖蒲重しょうぶがさね都人みやこびと 朧月堂ろうげつどう
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ゆるさせたまへ都人みやこびと
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
都人みやこびとの風習は、上下一般に、早婚だった。男は十二、三歳から十五、六歳までに、女は九歳から十二、三歳といえばもう嫁いだ。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは都人みやこびとの顔の好みが、唐土もろこしになずんでいる証拠しょうこではないか? すると人皇にんおう何代かののちには、碧眼へきがん胡人えびすの女の顔にも、うつつをぬかす時がないとは云われぬ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひとり執権幕下にその傾きがあるだけでなく、高時の行状は、いちいち京方にも響いてゆくので、都人みやこびとのあいだですら
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だめだ、都人みやこびとふうみたやつは。ひとりの甥など、たのみにすることはない。よし、おれひとりでも、果してみせる」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さすがに、お上人様は、やはり都人みやこびとでござらっしゃる」と、並んでいる百姓たちは、皆田植笠の下から笑った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、この時代の曠野の人間は——いや、たしなみある都人みやこびとの間でも、喜怒哀楽の感情を正直にあらわすことは、すこしもその人間の価値をさまたげなかった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煙村の少女おとめ温泉いでゆ湯女ゆな、物売りの女など、かえって、都人みやこびとのすきごころをうずかせたことでもあろう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人としてそれらの都人みやこびとの好みにかなうものはいない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)