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車夫
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わかいしゆ
「ちよツ、
馬鹿親仁。」と
年紀の
若い、
娑婆氣らしい
夥間の
車夫が、
後歩行をしながら、
私の
方へずつと
寄つて
來て
最近は……
尤も
震災前だが……
土橋のガード
下を
護謨輪で
颯と
言ふうちに、アツと
思ふと
私はポンと
俥の
外へ
眞直に
立つて、
車夫は
諸膝で、のめつて
居た。
蓋し、
期せずして、
一つ
宙返りをして
車夫の
頭を
乘越したのである。
拂ふほど
砂もつかない、が、
此れは
後で
悚然とした。……
實の
處今でもまだ
吃驚してゐる。
が、はずんで
下りて
一淀みして
𢌞る
處から、
少し
勢が
鈍くなる。
知らずや、
仲町で
車夫が、
小當りに
當るのである。「
澄まねえがね、
旦那。」
甚しきは
楫を
留める。
「
何ちふ
處や。」と
二人ばかり
車夫が
寄つて
來る。
當の
親仁は、
大な
前齒で、
唯にや/\。
「
何うだらう、
車夫、
車夫——
車が
打覆りはしないだらうか。」
「ぢき、
横町の……
何の、
車夫に——」
車夫は
雨風にぼやけた
聲して