足掻あがき)” の例文
いくら、足掻あがきのわるい縁の下でも、あぶないものを持って暗やみを無茶にかき廻されたひには、たまッたものではありませんから
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まくればなお盗賊どろぼうに追い銭の愚を尽し、勝てば飯盛めしもりに祝い酒のあぶくぜにを費す、此癖このくせ止めて止まらぬ春駒はるごま足掻あがき早く、坂道を飛びおりるよりすみやか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「青駒の足掻あがきを速み雲居にぞ妹があたりを過ぎて来にける」(巻二・一三六)という歌と形態上甚だ似ているにもかかわらず、人麿の歌の方が強く流動的で
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼は星田が犯行現場での狼狽ろうばいぶり、その後で彼への悲痛な告白、あづま日報社の編輯局から漏れ聞いた、星田の最後の足掻あがきの「サイアク・オククウ」と云う言葉、等々からして
戸の内なる泣く小兒、笑ふ女子は、皆襤褸つゞれを身に纏ひて、旅人の過ぐるごとに、手を伸べ錢をもとむ。馬の足掻あがきの早きときは、窓より首を出すべからず。石垣に觸るゝおそれあればなり。
嘶く声のはて知らぬ夏野に、末広に消えて、馬の足掻あがきの常の如く、わが手綱たづなの思うままに運びし時は、ランスロットの影は、と共にかすかなる奥に消えたり。——われは鞍をたたいて追う
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ああ、生命いのち……生命……これが生命あるものの最後の足掻あがきなのだろうか。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
足掻あがきに波を立てて、7305
と、厳顔げんがんは、一笑のもとに、その足掻あがきを見ているだけで、張飛の策にはてんで乗ってこないのであった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青駒あをこま足掻あがきはや雲居くもゐにぞいもがあたりをぎてにける 〔巻二・一三六〕 柿本人麿
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ふくはぎに小さい鉄の才槌さいづちしばり附けたように足掻あがきに骨が折れる。あわせの尻は無論端折はしおってある。その上洋袴下ズボンしたさえ穿いていないのだから不断なら競走でもできる。が、こう松ばかりじゃ所詮しょせんかなわない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我はこゝに至りて、復たこれを避けんと欲することなく、却りて二馬の足掻あがきなほはなはだ遲きを恨みき。譬へば死の宣告を受けたるものゝ、早く苦痛の境を過ぎて彼岸に達せんことを願ふが如くなるべし。
「無駄な足掻あがきをやるのは止せ。もう、てめえのつらは死相に変って来ているじゃねえか!」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして痛い腹をかかえながら、膏汗あぶらあせになって歩いたくらいである。鶏冠山けいかんざんを下りるとき、馬の足掻あがきが何だか変になったので、気をつけて見ると、左の前足の爪の中に大きな石がいっぱいにはまっていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)