赤毛布あかげっと)” の例文
自分も一足おくれて、小僧と赤毛布あかげっとの尻を追っけて出た。みんな大急ぎに急ぐ。こう云う道中にはれ切ったものばかりと見える。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この二十余歳の青年赤毛布あかげっとは、他の同僚が、西洋の異様な風物に眩惑されている間に、金銀の量目比較のことに注意し、日本へ帰ってから
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
同伴者は新井章吾あらいしょうご稲垣示いながきしめすの両氏なりしが、壮士連の中には、三々五々赤毛布あかげっとにくるまりつつ船中に寝転ぶ者あるを見たりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
色のさめた赤毛布あかげっとの膝かけ、古半天を裏返しに着て素足にわらじばき、かじ棒を無性にあげてヨタヨタ、全くみじめだ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「おあつらえ通り、しわくちゃな赤毛布あかげっとが敷いてあって、水々しい婆さんが居ますね、お茶を飲んで行きましょうよ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤毛布あかげっと。オラア、オッタマゲタ。きたない歯。日本には汽車がありますの? 送金延着への絶えざる不安。その憂鬱と屈辱と孤独と、それをどの「洋行者」が書いていたろう。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
清国しんこくの津々浦々からのぼって来る和船帆前船の品川前から大川口へ碇泊ていはくして船頭船子ふなこをお客にしている船乗りの旅宿で、座敷の真中に赤毛布あかげっとを敷いて、けやき岩畳がんじょうな角火鉢を間に
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
積荷の石炭の上にゴザをしいて、赤毛布あかげっと一枚にくるまって寝たよ。今どきの若い者が、あたたかいものを充分に着こんでいながら、寒いなんち、いうちょるのは、ちゃんちゃら、おかしい。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
赤毛布あかげっとが誰もする通り一遍の感嘆のほかには、七兵衛として、別段に名所古蹟を縦横から見直すという手段はありません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
赤毛布あかげっとと云い、小僧と云い、実に面白いように早く話がまとまってしまうには驚いた。人間もこのくらい簡単にできていたら、御互に世話はなかろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
辻車の腰掛、茶店の床几、芝居の桟敷、そのほかお花見や遊山ゆさんの席など明治初年の赤毛布あかげっとの流行は大したもの、毛布といえば赤いものと心得るぐらい。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
初阪はつざかものの赤毛布あかげっと、というところを、十月の半ば過ぎ、小春凪こはるなぎで、ちと逆上のぼせるほどな暖かさに、下着さえかさねて重し、野暮なしまも隠されず、頬被ほおかぶりがわりの鳥打帽で
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
食事終りて牢内を歩むに、ふと厚き板の間のすきより、床下ゆかしたの見ゆるに心付き、試みにひとみらせば、アア其処そこに我が同志の赤毛布あかげっとまといつつ、同じく散歩するが見えたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
山奥の田舎から出て来たばかりの赤毛布あかげっとは、妙なところに感心したりして、そうして、雀三郎の政岡の「とは言うものの、かわいやな」という愁歎場しゅうたんばを見て泣き、ふと傍を見ると
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
向うの床几しょうぎには二人かけている。等しく草鞋穿わらじばきで、一人は赤毛布あかげっと、一人は千草色ちくさいろ股引ももひき膝頭ひざがしら継布つぎをあてて、継布のあたった所を手で抑えている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
透間すきまのない人立ひとだちしたが、いずれも言合せたように、その後姿を見送っていたらしいから、一見赤毛布あかげっとのその風采ふうで、あわただしく(居る、)と云えば、くだんおんな吃驚びっくりした事は、往来ゆききの人の
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
変れば変るもの、目まぐるしい帝都の発展に、先祖代々の東京ッ子も昔の赤毛布あかげっとよろしく、見当のつかぬ市中の変化、明治の初年から二十年代の頃を思うと、さらに輪をかけた変化の跡が偲ばれる。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
この呑気のんきな長蔵さんと、さらに呑気な小僧に赤毛布あかげっとと、それから見様見真似みようみまねで、大いに呑気になりかけた自分と、都合四人で橋向うの小路こみちを左へ切れた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真鍮のこの煙管さえ、その中に置いたら異彩を放ちそうな、がらくた沢山、根附ねつけ緒〆おじめたぐい。古庖丁、塵劫記じんこうきなどを取交ぜて、石炭箱を台に、雨戸をよこたえ、赤毛布あかげっとを敷いて並べてある。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤毛布あかげっと背負しょって弁当をぶら下げて、懐中にはおのおの二十銭ずつ持って、そうして夜の十時頃までかかって、ようやく江の島のこっちがわまで着いた事は着いたが
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いいかね東風君、二三歩出たがまた引き返して、国を出るとき三円二十銭で買った赤毛布あかげっとを頭からかぶってね、ふっとランプを消すと君真暗闇まっくらやみになって今度は草履ぞうり所在地ありかが判然しなくなった
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)