贅肉ぜいにく)” の例文
日頃はその汗をすらかくことのない生活に馴れているので、体は贅肉ぜいにく脂肪しぼうに富み、四十を過ぎてからは、目に立ってえていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
からだ贅肉ぜいにくがおちてひき緊り、肩や腕や腰のあたり、筋肉がこりこりして、膚は青年のように、つやつやと張りきってみえた。
武道で鍛えあげた彼の体は、脂肪あぶら贅肉ぜいにくも取れて、痩せすぎるほどに痩せていた。それでいて硬くはなく、しないそうなほどにも軟らかく見えた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
外科医がメスで贅肉ぜいにくぎ取るように、全く鼻らしいものゝ痕跡も止めぬまでに、綺麗きれいに根元から切り落したからである。
体操の選手は選手で、贅肉ぜいにくのない浮彫うきぼりのような体を、平行棒に、海老えび上がりさせては、くるくる廻っています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
贅肉ぜいにくがたまたま人の姿をかりたように、よくふとっていた。すでに五十の齢であったが、音にきこえた色好みには衰えもなく、夜毎におちこちの女に通った。
紫大納言 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しわにも贅肉ぜいにくにも、見たところ何んの變化もなく、絞殺した樣子などは、馴れた眼にも見出せなかつたのです。
小さいながらあぶらぎった顔に、おびただしいしわが深く刻まれているばかりでなく、とがったあごの下から、まるで金財布のようにだぶだぶした横に長い大きな贅肉ぜいにくがぶらさがっていた。
歩くたびに、いっせいに贅肉ぜいにくが揺れるので、マチスの魚や海草が、みな生きて動く。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
従って接合部切口における断面積も算出されるわけだから、これらの数値によって不要なる贅肉ぜいにくは揉み出して切開除去されるのだ。だからももと移植すべき脚との接合部はぴたりと合う。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
身体を締めつけていたたがを外した途端にぷうとふくれたといったような、その奇妙な肥り方を美佐子も示していて、まだ若いのだろうに、年増としま贅肉ぜいにくのような、ちょっといやらしいのを
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
笑顔といっても、笑っているのは顔の筋肉や贅肉ぜいにくだけで、眼は全然笑っていなかったようでした。「実は、わたし、不破君に十八万円の貸しがあってね。こりゃ、してやられたかな。はっはっはあ」
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
贅肉ぜいにくたたえた頬に、苦笑をうかべる。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
九鬼嘉隆くきよしたかという贅肉ぜいにくもなく骨じまりの慥乎しっかとした色のくろい男だ。いわゆる潮みがきにかけられた皮膚と生きのいいぼらみたいな眼をもって
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
痴川は急にわなわなと顫えだして頬の贅肉ぜいにくをひきつらせ、ちんちくりんなこぶしで伊豆の胸倉をこづいて
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
もう一人の武士はこれとちがい、年もおおかた三十でもあろうか、面擦れのした赭ら顔、肥えてはいるが贅肉ぜいにくのない、隆々たる筋骨の大丈夫で、その名を平手造酒ひらてみきといった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
身長五尺二寸と云ふ小兵の上に骨細の私がそんな目方めかたになつたのだから、腕にも、脚にも、鼻の頭にも、頬ツぺたにも贅肉ぜいにくが垂れ下り、指の附け根や臀の上には赤ん坊のやうなゑくぼが出来
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この青年将軍は皓歯明眸こうしめいぼうで、よく贅肉ぜいにくを除いて筋骨にムダのない長躯ちょうくは、千里を行く駿馬のごとき相があった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高い山の上に住んでおります。森でも林でも広野でも、どんな所へでも歩けます。いくらか肉付きがよくなりました。贅肉ぜいにく付いたのではございません。固肥かたごえしたのでございます。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
背割羽織せわりばおり裾縁野袴すそべりのばかま柄袋つかぶくろをかけた長目の大小、贅肉ぜいにくのないひきしまった体格、武道に勝れた証拠であろう、涼しいながらに鋭い眼、陽焼けして色こそ赭いけれど、高い鼻薄い唇
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「生をむさぼり、死をおそるる者とは、共に大事を語るべからず。——いや、お邪魔いたした。其許そこもとはせいぜいなたで贅肉ぜいにくをあたためて頭やあごの白いこけを養っているがよろしかろう」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
体は、小づくりで、贅肉ぜいにくが少しもない。痩せッぽちなのだ。しかし、声が太い。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに臨んで接待役に当った三名も、年配はみな四十以上らしいが、ほねたくましく、贅肉ぜいにくなく、ひどく大きな手を、不器用に両膝へ乗せて、坐り仕事は不勝手でござると、その容子ようすからして物語っている。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)