こい)” の例文
素戔嗚すさのおはそろそろれ出しながら、突慳貪つっけんどんに若者のこいしりぞけた。すると相手は狡猾こうかつそうに、じろりと彼の顔へ眼をやって
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
松井田にもいろいろと言い分もあり、それでは困る事情もあったが、風間への恩義と友情とそれから真理のため、そのこいをきき入れねばならなかった。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その夜私の泊って居るこやで僧侶らのこいに従って十善法戒ぜんほうかいの説法を致しました。すると彼らがいいますには仏法はこんなに分り易く説いてくれる方はごく少ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
頓首とんしゅして謝し、ついで卒すと。篋中きょうちゅうの朱書、道士の霊夢、王鉞おうえつの言、呉亮ごりょうの死と、道衍のこいと、溥洽のもくと、嗚呼ああ、数たると数たらざると、道衍けだし知ることあらん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それで、今親類中に、市蔵の尊敬しているものは僕よりほかにないのだから、ともかくも一遍呼び寄せてとくと話して見てくれぬかという彼女のこいを快よく引受けた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
渋江氏では、もしそのこいれなかったら、あるいは両家の間に事端じたんを生じはすまいかとおもんぱかった。陸が遂に文一郎に嫁したのは、この疑懼ぎくの犠牲になったようなものである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
が、しかし私は、たとい日本政府との間に、少しの面倒があっても、あの青年たちのこいを容れてやることが、どんなに正しいことであり、いいことであるか分からないと思う。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
中止したりしを籾山書店これを聞知り是非にも小本こぼんに仕立てて出版したしと再三店員を差遣されたればわれもその当時ははなはだ眤懇じっこんの間柄むげにもそのこい退しりぞけかね草稿を渡しけり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ついに、父坪右衛門のこいにより隠元老師の諭示を受くるに到るや、心機一転する処あり
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
武士は妾のこいに少なからず当惑したけれど、もはやいずれにしても命のない女の身を可哀そうに思って、意を決して二人は手に手を取り合うて、秋さに深き信濃の山路に逃げのびたのである。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
是々と叔父のこい
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
津崎左近つざきさこんは助太刀のこいしりぞけられると、二三日家に閉じこもっていた。兼ねて求馬もとめと取換した起請文きしょうもんおもて反故ほごにするのが、いかにも彼にはつらく思われた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
堺では私の竹馬ちくばの友である伊藤市郎氏、この方もよく慰みに網打に行かれたですが高部氏の話をしていさめたところが幸いに私のこいを容れ網を焼いて餞別にしてくれた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「じゃ、我々はこの青年たちのこいしりぞけた方が、無難だというのですか」
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その翌日も逗留して酋長のこいに従ってお経を読みそこでまた道の順序を尋ねました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
勝平はそうした余裕のある心持で、瑠璃子のこいれた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)