角樽つのだる)” の例文
お豊はそう云いながら、角樽つのだるを取って、その口からひやのまま飲もうとした。深喜は近よってその手をとらえ、角樽を奪って脇へ置いた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
正面に盛切もっきりの台が拭きこんであって、真白な塩がパイスケに山盛りになって、二ツ三ツの酒樽さかだると横に角樽つのだるが飾ってある店だ。
(與助と雲哲、願哲は助十を支へてゐる。下のかたの路地口より左官屋勘太郎、三十二三歳、身綺麗にいでたち、角樽つのだるするめをさげて出づ。)
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
家号披露目びろめをしてから、一日おいて自前びろめをしたのだったが、その日は二日ともマダムの常子も様子を見に来て、自分は自分で角樽つのだるなどを祝った。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
といいいい、これも、怪訝けげんそうに、じろりじろりとる。……お悦がその姿で、……ここらでは今でも使う——角樽つのだるの、一升入を提げていたからである。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
村で酒を造るには村桶があり、また贈答用の角樽つのだるもできていたようだが、いずれもひのきの板を曲げてじた曲げ物だから、そう大きな入れ物にならなかったかと思われる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二升入りの角樽つのだるを投げだすように坊主畳の上へおくと、首すじの汗をぬぐいながら
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
やすみ弟子中へことわりて歸しふたゝ座敷ざしきへ來りしに清兵衞は五升入の角樽つのだる鮮鯛せんたひをり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
雪之丞が八幡宮鳥居前に待たせてあった、角樽つのだるかつがせた供の男に案内させて、これから急ごうとするのは、縁あって、独創天心流の教授を受けた、脇田一松斎の、元旅籠はたご町道場へだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
十太夫がやり返そうとすると、おわかが小女たちと共に、角樽つのだる片口かたくちや、燗鍋かんなべをかけた火鉢などを運んで来、賑やかに燗の支度を始めた。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
紅屋で振舞った昨夜ゆうべの酒を、八郎が地酒だ、と冷評さましたのを口惜くやしがって、——地酒のしかも「つるぎ」と銘のある芳醇ほうじゅんなのを、途中で買って、それを角樽つのだるで下げていたのであるから。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本来なら、角樽つのだるの一挺もさげて、まっさきにお礼にやってこなくちゃならねえところなんだが、逃げ廻るてえその了見が太いから、ひとつとっつかまえて油をしぼってやろうと思うんです。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
來た事ゆゑ土産みやげもたぬとて矢張やはりさけがよしほかの物は何を上ても其樣におよろこびなされず酒さへ上ると夫は/\何よりのお悦びなり我も同道どうだうせんにより夫は我等が宜樣よきやうにするとて五升入の角樽つのだるへ酒を入熨斗のし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「殿さまにこれ持って来ただ」とふじこが云い、三人はそれぞれ、手籠や角樽つのだるや、重箱の包みをそこへ並べた。
二升入りの大きな角樽つのだるをさげニヤニヤ笑いをしながらあがって来て
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
火鉢に燗鍋かんなべ、徳利に角樽つのだる、それからさかずきだけのせたぜん。それらを運んでいるうちに源次郎が来た。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「晩飯を食わせるから来いというんでいったんです、ふところ都合も余りよくはねえだろうと思ってこっちは頑てきに角樽つのだるを持たせていったくらいなんです、ところがあの蒟蒻玉こんにゃくだまは」
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平蔵はそれでも紋付はかまで、一升入りの角樽つのだるを二つ、酒屋の男に持たせてあらわれた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まもなく、あの方は角樽つのだるを持って戻り、汁椀へ酒を注いで飲み始めた。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
灯のはいった行燈と、燗鍋かんなべのかかった火鉢の側に酒肴しゅこうぜん、そして角樽つのだるが置いてあった。一方の壁には、坐っていて眼の高さに小さな窓のようなわくがあり、縦三寸横一尺ほどの滑り戸が付いていた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)