見越みこし)” の例文
樽を張子はりこで、鼠色の大入道、金銀張分けの大のまなこを、行燈見越みこしたちはだかる、と縄からげの貧乏徳利どっくりをぬいと突出す。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もとは柳橋やなぎばしにいた奴だよ、今は、駒形堂こまがたどうの傍に、船板塀ふないたべい見越みこしまつと云う寸法だ、しかも、それがすこぶるの美と来てるからね」と小声で云って笑顔わらいがおをした。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
折からあたりもたそがれてきたし、人の見る眼もない様子なので、彼は門前の捨て石を足がかりとし、塀の見越みこしへ片手をかけて、ヒラリと上へじ登った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或日商人某が柳原の通をゆくと一人の乞丐こじきこもの中に隠れて煙草を喫んでいるのを瞥見べっけんして、この禁煙令はいまに破れると見越みこしをつけて煙管を買占めたという実話がある。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
四方板塀で圍まれ隅に用水桶が置いてある、板塀の一方は見越みこしに夏蜜柑の木らしく暗く繁つたのが其いたゞきを出して居る、月の光はくつきりと地に印してせきとし人の氣勢けはひもない。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しか其麽そんなはなしをしてかせる人々ひと/″\勘次かんじひど貧乏びんばふなのと、二人ふたりるのとで到底たうてい後妻ごさいつかれないといふ見越みこしさきつて、心底しんそこから周旋しうせんようといふのではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
塀の中には見越みこしの松から二階の手すりなども見えて、気取った作りの家の前まで来ると女が先に格子をあけて案内した時、表にかけた松月堂古流云々うんぬんの看板で、この女がべつだんすごいものではなく
ほこりを黄色に、ばっと立てて、擦寄って、附着くッついたが、女房のその洋傘こうもりからのしかかって見越みこし入道。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、彼は、ぽんと、塀の見越みこしへ跳び乗った。——後は、音もしない。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
可恐おそろしいものを取入れて、おどすものには威され、祟るものには祟られ、怨むものには怨まれるほどの覚悟で、……あるべき事ではないのですが、ろくろ首でも、見越みこし入道でも、海坊主でも。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
所詮しょせん、混雑はまぬかれまいとの見越みこしから、いっそ海上がよかろう、島がよいとなって、赤間ヶ関と門司ヶ関との間の小島——穴門あなとしまとも、またの名を船島ともいう所ですることと決定いたした
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見越みこし、河太郎、かわうそに、海坊主、天守におさかべ、化猫は赤手拭あかてぬぐい篠田しのだくずの葉、野干平やかんべい、古狸の腹鼓はらつづみ、ポコポン、ポコポン、コリャ、ポンポコポン、笛に雨を呼び、酒買小僧、鉄漿着女かねつけおんな
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)