薄絹うすぎぬ)” の例文
何故ならあの婚禮の衣裳の一揃ひとそろへ——眞珠色の服、奪つてきた旅行鞄から下つてゐる霞のやうな薄絹うすぎぬの被物などは私のものではないのだ。
どうやら渡り終った所でその二人は荷物をおろした。私はその人々に礼物としてチベット流のカタというものをった。これは白い薄絹うすぎぬです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
身長身幅より三四倍もある尾鰭おびれは黒いまだらの星のある薄絹うすぎぬ領布ひれを振り撒き拡げて、しばらくは身体も頭も見えない。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
刷毛はけいたようなゆみなりになったひろはま……のたりのたりとおともなく岸辺きしべせる真青まっさおうみみず……薄絹うすぎぬひろげたような
煙のごとくかすむ花の薄絹うすぎぬとおして人馬の行列が見える。にしきのみ旗、にしきのみ輿こし! その前後をまもるよろい武者! さながらにしき絵のよう。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
はゝこゝろ何方いづかたはしれりともらで、ちゝきれば乳房ちぶさかほせたるまゝおもことなく寐入ねいりちごの、ほゝ薄絹うすぎぬべにさしたるやうにて、何事なにごとかたらんとや折々をり/\ぐる口元くちもとあいらしさ
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
……えんなる女優の心を得た池のおもは、萌黄もえぎ薄絹うすぎぬの如く波をべつゝぬぐつて、清めるばかりに見えたのに、取つて黒髪にさうとすると、ちっと離したくらゐでは、耳のはたへも寄せられぬ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
みんな腰から上は真裸まっぱだかで、腰にいろんな色の薄絹うすぎぬをつけてるのです。
魔法探し (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
薄絹うすぎぬかつぐ眉にせむ
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
「だが薄絹うすぎぬの中に縫取の他に何かあつたの? そんな悲しさうな顏をしてるとは、毒か、短劍でもあつたといふの?」
母が心の何方いづかたに走れりとも知らで、乳にきれば乳房に顔を寄せたるまゝ思ふ事なく寐入ねいりちごの、ほう薄絹うすぎぬべにさしたるやうにて、何事を語らんとや、折々をり/\ぐる口元の愛らしさ
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
チベットでは手紙を出す時分には必ず土産みやげえてやる。相当の土産がないと、この間申しましたカタという薄絹うすぎぬを入れてやるのが例ですから、私も相当の土産を贈ってやりました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかし私は薄絹うすぎぬかぶつてゐる——それは垂れてゐる。どうにか品よく落着いて振舞ふことが出來よう。