ぶた)” の例文
と、徳利をつかんだまま、よろよろと、立ちあがると、ガタピシとぶすまをあけ立てして、庫裡くりの戸棚の中の、ぶたね上げる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
小屋の前にむしろを敷いて葛岡はいたちる罠だという横長い四角い箱の入口の落しぶたの工合をかたん/\いわせながら落し試みていました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もう一つ、先刻さつき、お勝手の落しの揚げぶたが曲つてゐたのへ足を乘せて、思はず落しの中へ落ち込むと、あの人はキヤツと悲鳴を
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
君もよく知っている通り、その上げぶたを明けて、繩梯子でもおろしてくれる外には、梯子段はしごだんも何もないんだから。人間業では出られやしない。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何とも俺のようなむつかしい男にも妻に来る女があるだろうかと問うと、そこはれ鍋にとじぶた、ありそうなものと、三語のじょうにも比すべき短答。
七子ななこのかなり大型の両ぶたの金時計を持って来て私に渡し、「麻田さん(当時の社長)にもそうたびたびはいいにくいから、これで一時都合して下さい」
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
木地きじはむろんひのきに相違ないが、赤黒の漆を塗り、金銀か螺鈿らでんかなにかで象嵌ぞうがんをした形跡も充分である。蓋はかぶぶたで絵がある。捨て難い古代中の古代ものだ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わざと仲間ちゅうげん一人連れず、彼女は、甚三郎の死装束を、白木の衣裳ぶたへ乗せて、心づよくも、歩いて行った。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はぶたをひいて、その中から長い紐線コードのついたマイクをとりだし、口のところへ持っていった。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
世に用あるものは形の美醜を問はず、とぢぶたもわれ鍋に用ゐられ悪女も終には縁づく時あり。
土達磨を毀つ辞 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
カステラ鍋の方は全体が銅で白身を敷いてあって上はかぶぶたで蓋の中ほどが一段低く出来ていますけれども田舎で使うには厚いブリキの箱へ蓋をせるようにすれば沢山です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
沖田刑事は鞄のかぶせぶたに打ち込まれた頭文字に吸いつくように見入っている。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
はたせるかな、そこには長さ一アルシン(約七十センチメートル)以上もあって、そりぶたがつき、キッドの赤革を張って、鋼鉄のびょうを一面に打ってある、かなり立派なトランクが置いてあった。
春水しゅんすいの替えぶたがついて……」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そう女房をはげましつつ、地下道のどんづまりまで来て手さぐりで、ぶたを起す枢機くるまをまさぐるのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
床板がぶたになっていて、その下にどうやら階段がついているらしい。地底の穴蔵への入口である。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もう一つ、先刻、お勝手の落しのぶたが曲って居たのへ足を乗せて、思わず落しの中へ落込むと、あの人はキャッと悲鳴をあげたじゃありませんか。どんなに気の弱い人だって、男はあんな悲鳴を
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「できものにぶた
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一種異様の咳払せきばらいをした。すると、これはどうだ。押入れの天井にポッカリと穴があいて、そこから真赤な電燈の光りが射して来た。天井板と見せかけて、その実ぶたになっているのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
文子の机の上げぶたを開いて、そこに入れてあった筆入れから、一番ちびた、殆ど用にも立たぬ様な、短い鉛筆を一本盗み取り、大事に家へ持帰ると、彼の所有になっていた小箪笥の開きの中を
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)