荒地あれち)” の例文
厩舎の戸を開け放しにしたままシムソンは荒地あれちの方へ馬をつれ出していったが、その途中で調馬師に出会ったか、または追いつかれた。
老人は、だまってれいかえしました。何かいたいようでしたが黙ってにわかにむこうをき、今まで私の来た方の荒地あれちにとぼとぼ歩き出しました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
でも、夕方ゆうがただったら、ガンたちはここにとまることはできなかったでしょう。なぜって、ユパフォルスは荒地あれちにあるのではありませんから。
わが泣くを見て彼答へて曰ひけるは、汝この荒地あれちよりのがれんことをねがはゞほかの路につかざるをえず 九一—九三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一寸ちよつとにくところである。遺跡ゐせきひろいが、先年せんねん、チヤンバーレン大發掘だいはつくつこゝろみたとかで、畑地はたちはう斷念だんねんして、臺地北側だいちきたかは荒地あれち緩斜面くわんしやめんなかに四にんはいつた。
窓から外を見ると広い荒地あれちで、その先の方に、赤くにごった池があって、柳の木が二、三本立っていました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それであるのに、三人目の男はとんでもなく白気しらけきった顔つきで、「いや二百株ばかり、それもごくありふれた、種類の悪い躑躅が植えてある荒地あれちのような家敷跡やしきあとですよ」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
東は、いちめんの竹林帯や耕地荒地あれち。——そして三方に高い城壁をめぐらし、本丸、二の丸、新曲輪しんぐるわの三部を中心に、附近の丘にはなお点々と、数ヵ所の防塁を備えている。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれも雑樹林や、はたを抱く。この荒地あれちの、まばら垣と向合ったのが、火薬庫の長々とした塀になる。——人通りも何にも無い。地図の上へ鉛筆で楽書らくがきしたも同然な道である。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五年目ごねんめには田地でんち取返とりかへし、はたけ以前いぜんよりえ、山懷やまふところ荒地あれち美事みごと桑園さうゑんへんじ、村内そんないでも屈指ゆびをり有富いうふう百姓ひやくしやうおはせたのです。しかもかれ勞働辛苦らうどうしんくはじめすこしかはらないのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
丁度焼跡の荒地あれちに建つ仮小屋の間を彷徨さまようような、明治の都市の一隅において、われわれがただ僅か、壮麗なる過去の面影に接し得るのは、この霊廟、この廃址はいしばかりではないか。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ブツブツの荒地あれちにしたあとへ、モガルの色糸で一重蔓小牡丹もんを、いたずらでもしたようにチラホラ散らしたという……お話中……わからないひとねえ、お話中だといってるじゃありませんか。
姦(かしまし) (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ふくれて、太って、転がって、荒地あれち
タヴィストックへは西へ二哩ばかりあり、荒地あれちを越して二哩ばかり行くと、ケープルトンにはかなり大きな調馬場がある。
そして、お日さまののぼるまえに、みんなは運動会場へはいります。もっとも、運動会場というのは、道の左手にある、ヒースのえた荒地あれちのことです。
そこからは八方の荒地あれちが見渡せるが、どっちを見ても名馬の影すら見えないばかりか、何か不吉なことが起ったんだなという予感を起させられたのだった。
お日さまが沈みますと、くらやみと荒地あれちのおそろしさにたまらなくなって、人間がこいしくなってきました。ニールスはガチョウのはねの下にもぐりこんでいるのですから、何ひとつ見えません。