脳漿のうしょう)” の例文
旧字:腦漿
見れば、西門慶の体は、頭から脳漿のうしょうを出して伸びている。彼は、短剣を拾って、けいの首を掻き、金蓮の首をあわせて、袖ぐるみに横へ持った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
設計は武田博士、鋼鉄は本多博士、この世界的二大学者の脳漿のうしょうのかたまりが、はえある『最上』『三隈』『吉野』『千種』だ!
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
本当の天才の境地を私は知らない、我々凡才、濁った脳漿のうしょうを持ったものは、汲み出し、汲み捨てるより外に、智恵を浄化する術はないのである。
……鳶尾根末かびねまつ亜鉛華あえんか麝香草じゃこうそう羊脂ようし魚膠ぎょこう雷丸油らいがんゆ疱瘡ほうそうで死んだ嬰児みずこ脳漿のうしょう、それを練り合わせた塗抹剤……お着けすることに致しましょう
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、フローラは、皮質をもみ脳漿のうしょうを絞り尽くして、ようやく仮説を組み上げたけれども、昨夜見た父の腕だけは、どう説き解しようもないのだった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
肝臓や、子宮、脳漿のうしょうが、ある方面にたいして商品としての価額を持っているとは、驚くべきことだが、事実である。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
いかにして国運を恢復かいふくせんか、いかにして敗戦の大損害をつぐなわんか、これこの時にあたりデンマークの愛国者がその脳漿のうしょうしぼって考えし問題でありました。
屍体を検案するに、致命傷は前額部の一創にして、約拳大にわたって、頭蓋骨粉砕し、脳漿のうしょう露出す。他殺と確定。
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
刀のさやを払って走せ向った血気の青侍二三名は、たちまちその大丸太の一薙ひとなぎに遇い、脳漿のうしょう散乱してたおれ伏します。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
鳳岡・白石の二大儒がかくの如くその脳漿のうしょうを絞って論戦するほどのことではないようであるが、当時支那道徳が形式上甚だしく尊重せられておったことと
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
この怪物を押しつぶす、ただそれだけのために、人はピストルをおのれ脳漿のうしょうにぶちこむことすらある。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
斬割られた頭から、どす黒く、血と混った脳漿のうしょうが、眼から、鼻の脇へ流れて、こびりついていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
電落した左膳の長剣に、ガジッ! と声あり、そぎとられた頭骸骨ずがいこつの一片が、転々と地をはった。脳漿のうしょう草に散って、まるでたぶさをつけたお椀をほうり出しでもしたよう——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自分がそんなに骨折って知恵をめぐらす必要があるか、むろん悪口の種類にもよるが、同じく脳漿のうしょうを絞るなら、悪口に対し弁護するよりもまだまだ適切な用途が多くあると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その他の器物や硝子ガラスの破片が、足の踏場もなく散乱している中に、脳漿のうしょうが飛散り、あおい両眼を飛出さしたロスコー氏が、鮮血の網を引被ひっかぶったままよごれたピストルをシッカリと握って
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もう一秒気の付くのが遅れたら、身体が粉微塵になって、脳漿のうしょうが飛散したであろう。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
故人の書いた料理帳、それは魂祭のためのもうけであるというので、季題にもなっているのであるが、こういう表現はよほど脳漿のうしょうしぼらないと出来ない。元禄の句は無造作むぞうさで自然である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
今の青年はいややともすると実用なる科学智識の研究を閑却してヤレ詩を作るの歌をむのあるいは俳句を案ずるのと無用な閑文字かんもんじ脳漿のうしょうしぼっているが、そんな事は専門家にすべき事だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私は死物狂になって脳漿のうしょうをしぼりました。
悪魔の弟子 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
脳漿のうしょうを吸ひ取り精気をひしぐ魔女。
手で踏んだ毛髪、脳漿のうしょう
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
刀のさやを払つて走せ向つた血気の青侍二三名は、たちまちその大丸太の一薙ひとなぎに遇ひ、脳漿のうしょう散乱してたおれ伏します。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
二人がかりで死骸を起してみると、傷は脳天へたった一つ、先のとがった重い鈍器で叩いたものらしく、径一寸ほどの穴が開いて、血潮と脳漿のうしょうが四方に飛散っております。
異様なものがギャッという音と共に破裂した、赤い泥をぶつけたような脳漿のうしょうの血しぶきだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さながら、脳漿のうしょうの臭いをぐ思いのする法水の推定が、ついにくつがえされてしまった。レヴェズは発見されはしたものの、垂幕の鉄棒に革紐を吊って、縊死いしを遂げているのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今までしゃべっていたやつが、脳漿のうしょうを飛ばしてそこにころがっている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
くずれた脳漿のうしょうを踏み
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
ところが、その夜から翌日の正午ひる頃までにかけて、法水は彼特有の——脳漿のうしょうれ尽すと思われるばかりの思索を続けたが、はしなくもその結果、伸子の死に一つの逆説的効果を見出した。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)