胆力たんりょく)” の例文
旧字:膽力
しかしぐっと胆力たんりょくをすえて、本堂の中へ入ってみた。そして中の様子をくまなく調しらべた。それから廊下ろうかつづきの庫裡くりの方へ入って行った。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「実は千坪余りそっくりだと七円五十銭で手に入ったのだから、借金をしても買って置けば宜かったのに、当時はそれ丈けの胆力たんりょくがなかった」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一同の悲愴ひそうな決意を見るにつけ、ケートは心のなかで泣いた、少年らがいかに胆力たんりょくがあり、知恵があるとしても、悪漢どものすぐれた体格や
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
用人ようにん源伍兵衛げんごべえ老人である。さては、自分の気の迷いで、廊下には何人も立ってなんぞいなかったのだと思うと、玄蕃げんば、一時に胆力たんりょく恢復かいふくして
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
買って来る胆力たんりょくはあるまい。——豆腐はちゃんと買って来ている。——本当に殺す気なら、まだ外に折があったはずだし、もう少し騒ぎ立てるわけだ
またその場に急に英雄豪傑を真似まねたとて、その腹の底に胆力たんりょくがなければ、話しているあいだの姿勢にて暴露する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
で、それに跟いて往くと、三畳敷位の広い巌窟になって、その下の微暗うすぐらい処に白骨になりかけた死骸がよこたわっていた。胆力たんりょくのある李張はその死骸に近寄った。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
だがしかし、さすがは少年探偵として、師の帆村荘六から折紙おりがみをつけられている三吉のことだった。九死のうちにも、僅かな隙を見出す機転と胆力たんりょくとがあった。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれの天性の怪力は、父能登守のそれ以上で、幼少から、快川和尚かいせんおしょう胆力たんりょくをつちかわれ、さらに天稟てんぴんの武勇と血と涙とを、若い五体にみなぎらせている熱血児ねっけつじである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれは卑怯ひきょうな人間ではない。臆病おくびょうな男でもないが、しい事に胆力たんりょくが欠けている。先生と大きな声をされると、腹の減った時に丸の内で午砲どんを聞いたような気がする。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう六十を越した老人ではあったが、根が漁師育ちである丈けに、胆力たんりょくはガッシリと据っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
古い家々のしつけかたには、女子の勇気と胆力たんりょくとを、ただ死の方面にしか発露せしめないような、わけのわからぬ方針が久しく立っていて、死ぬほどの不幸が家に起こらぬかぎり
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
お年二十二の時に悪者わるもの斬殺きりころしてちっとも動ぜぬ剛気の胆力たんりょくでございましたれば、お年を取るにしたがい、益々ます/\智慧ちえが進みましたが、そののち御親父ごしんぷ様には亡くなられ、平太郎様には御家督ごかとくを御相続あそばし
こうねらわれては、もう逃げる余裕はない。この上は胆力たんりょくえて、白幽霊の前に出、そして彼等の質問に答えると共に、逆に彼等の正体を偵察してやろうと決心した。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
武蔵は童の胆力たんりょくに感じて、共に手伝って、屍体を裏山へ運んで厚く葬ってやった。そしてこの孤児の胆力と怜悧れいりを愛して、永く手許に養い、遊歴中も連れ歩いていたそうである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とゴルドンは手をふって、「才知さいち胆力たんりょくと正義は、富士男君を第一におすべきだ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
女の子にしては恐ろしい胆力たんりょく
沖島速夫は、どこまで胆力たんりょくがすわっているのか、ゆうゆうと、リント少将に対しているのだ。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほかの物見と事ちがい、敵前敵中の十七、八町にわたる低地高地を、悠々と、ただ一騎乗りわたして、ぬすみ眼でなく、胆力たんりょくで見とどけて来た藤蔵の報告である。家康も、信頼した。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、自分の懐かしい家は無くなり、美しい背広せびろも、丹精たんせいした盆栽ぼんさいも、振りなれたラケットもすべて赤い焼灰やけばいに変ってしまったことがハッキリ頭に入ると、かえって不思議にも胆力たんりょくすわってきた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)