ほしいまま)” の例文
この互いにからみ合っている二匹の白猫は私をしてほしいままな男女の痴態を幻想させる。それからはてしのない快楽を私はき出すことが出来る。……
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
僕が、認識のメスを、自らの肉身に刺して血を流す時、僕の自意識の瞳孔どうこうは、詩人であった時よりも、ずっと豊かな風景の展望をほしいままにするのだ。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
甚しきは且つ一臂袒ひたんせざれば、すなわち鹿馬の奸にいて、遠く豺狼ひょうろうの地にざんせられ、朝士之がために寒心す。また且つ平民の膏腴こうゆほしいままに貪食するに任す。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
マタ遊覧ヲ好ム。然レドモ脚疾ヲ以テ跋渉ばっしょうスルニ便ナラズ。故ニ力ヲ述作ニほしいままニス。カツテ『玉岡詩鈔』ヲ著シ余ノ題詞ヲ徴セラル。余ニ詩ヲ賦シテコレヲ贈ル。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
致仕したのちに、力を述作にほしいままにしようと期していたのに、不幸にして疫癘えきれいのためにめいおとし、かつて内に蓄うる所のものが、遂にほかあらわるるに及ばずしてんだのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
貴族院の椅子を占めて優に高かるべきうつはいだきながら、五年を独逸ドイツに薫染せし学者風を喜び、世事をなげうちて愚なるが如く、累代の富を控へて、無勘定の雅量をほしいままにすれども
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そういう時には多く道理をもって判断せずして感情を以て愛憎あいぞうほしいままにします。感情を肆にする結果が恋愛という過失におちいって自ら不幸の運命を作り出します。それではどうしたらいいでしょう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ほしいまま係恋あこがれしるしだ。8470
是を以て九天邪を斬るの使を設け、十地悪を罰するの司を列ね、魑魅魍魎ちみもうりょうをして以てその奸を容るる無く、夜叉やしゃ羅刹らせつをして、その暴をほしいままにするを得ざらしむ。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さう周圍が眞暗なため、店頭みせさきに點けられた幾つもの電燈が驟雨のやうに浴せかける絢爛けんらんは、周圍の何者にも奪はれることなく、ほしいままにも美しい眺めが照し出されてゐるのだ。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
津藤つとう即ち摂津国屋つのくにや藤次郎とうじろうは、名はりん、字は冷和れいわ香以こうい鯉角りかく梅阿弥ばいあみ等と号した。その豪遊をほしいままにして家産を蕩尽とうじんしたのは、世の知る所である。文政五年うまれで、当時四十歳である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
... 改良すべき文学者の責任としてはどうしても道理にしたがわねばならんという意味を委しくかいげたらどうだね」大原「ウム、それも書くがね、その代り道理上からいえば父母の承諾なしに子がほしいままに嫁を ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
張士誠ちょうしせい平江へいこうを陥れたので、江浙左丞相達織帖睦邇こうせつさじょうそうたつしきちょうぼくじ苗軍びょうぐんの軍師楊完ようかんという者に檄を伝えて、江浙の参政の職を授け、それを嘉興でふせがそうとしたところが、規律のない苗軍は掠奪をほしいままにした。
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
また抽斎をして力を述作にほしいままにせしむるに至らなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これもっ九天邪きゅうてんじゃるの使つかいもうけ、十悪を罰するのつらね、魑魅魍魎ちみもうりょうをして以て其奸そのかんるる無く、夜叉羅刹やしゃらせつをして其暴そのぼうほしいままにするを得ざらしむ。いわんや清平せいへいの世坦蕩たんとうのときにおいてをや。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)