緩慢かんまん)” の例文
が、それも瞬時のことで、すぐ運動が緩慢かんまんになり、がぶッと水の中にもぐってしまう。そして、この、がぶッがだんだん頻繁になる。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
流出速度が極めて緩慢かんまんだったために、園長の体内に潜入していた弾丸たまは流れ去るに至らず、そのままひだの間に残留ざんりゅうしてしまったんです。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
蜘蛛は四ミリほどの褐色の剛毛の立っている脚で緩慢かんまんに方向を転じた。兄は冷く笑った。それから彼の前に並んでいる犠牲者たちの歴史を説明した。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
つぎにおこる驚天動地きょうてんどうち争闘そうとう御岳山上みたけさんじょうにおけるこのへん大眼目だいがんもくえがくために、あえて、ここに緩慢かんまん数行すうぎょうをついやす筆者ひっしゃ作心さくしん支度したくをゆるしたまえ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども往復震動おうふくしんどうきゆう緩慢かんまんとなつたゝめ、地動ちどうつよさは次第しだいおとろへてしまつた。鎌倉かまくら小田原邊をだはらへんでも、もつとはげしかつたのは最初さいしよ一分間以内いつぷんかんいないであつたといへる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
緩慢かんまんなる人生の旅行者」と兄を評した彼は、実を云うと、物質的に不安なる人生の旅行者であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
瀑布の下から瀑布の上に向うて迂回した水勢の緩慢かんまんな人工の水路が作られてある、労れた鱒魚はその水路を陸続として登って行く、それを人間が見ていて下の入口をふさいで
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
くたびれたのか、足の動きが緩慢かんまんだ。ちょっとよろよろとした。石につまずいたのだろう。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
それも、はなはだ、緩慢かんまんな動き方で、船と波止場との間の水が少しずつ幅を広くしていくから、わかるようなものの、さもなければ、ほとんど、動いているとは受取れないくらいである。
出帆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこまでする間じゅう、彼女はいっさい無言のまま、何かさも面白おもしろくてたまらないといった風の緩慢かんまんな身振りで、相変らずの明るいずるそうな薄笑いを、やや少しひらいたくちびるに浮べていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
この自動車道は雲仙で一番見事な道路で野岳の山脚さんきゃくを大廻りするため、勾配もカーヴも緩慢かんまんでドライヴには持って来いであるが、その代り旧山道さんどうなら三里に足らぬところを六里も迂廻うかいするのであった。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
まさかそれが曹操兄弟とは気づかなかったので、緩慢かんまんにも弓組の列を布いて、射術を競わせたものだった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっと緩慢かんまんなる麻痺性のものでないといけぬ。わしの作った神経瓦斯は、全然当人に自覚じかくがないような性質のものだ。臭気しゅうきはない、色もなくて透明だ、もちろん味もない、刺戟しげきもない。
「ええ話しましょう」とすぐ乗気な返事をしたが、活溌かっぱつなのはただ返事だけで、挙動の方は緩慢かんまんというよりも、すべての筋肉が湯にでられた結果、当分作用はたらきを中止している姿であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ハムレットの正覚は厚い雲の中から月が顔をだすように非常に徐々に緩慢かんまんに進行して、正常な自意識に到達するまでには相当な時間がかかったのでしょうが、意識が正常のしきいに達したとき
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
緩慢かんまんな傾斜をなして北方に低下しているが、絶頂に特に隆起した地点がないから、曠野の全部を一望の下に俯瞰ふかんすることが出来ないで遺憾いかんというべきである、三角点址の眺望は非常に宏闊であって
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
どう緩慢かんまんに放っておいても、所詮しょせんおりの中のものにひとしい。左馬介が逃げきれるものではない——という自信たっぷりな気持を前提としてであるということはいうまでもない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
緩慢かんまんなる人世の旅行者」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)