細雨こさめ)” の例文
しかも其の時は二百十日前後の天候不穏、風まじりの細雨こさめの飛ぶ暗い夜であるから、午後七、八時を過ぎるとほとんど人通りがない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小田原をだはらまちまでながその入口いりぐちまでると細雨こさめりだしたが、それもりみらずみたいしたこともなく人車鐵道じんしやてつだう發車點はつしやてんいたのが午後ごゝ何時なんじ
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
細雨こさめにじむだのをると——猶予ためらはず其方そちらいて、一度いちどはすつて折曲をれまがつてつらなく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
取敢へず、着て来た色のめた木綿の紋付を脱いで、小使が火を入れたばかりの火鉢の上にかざした。羽織は細雨こさめに遭つたやうにしつとりと濡れてゐて、白い水蒸気が渦巻くやうに立つた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わたしが九月二十四日の午後この山に登った時には、ふもとの霧は山腹の細雨こさめとなって、頂上へ来ると西の空に大きな虹が横たわっていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もう四ツ時分だから駕籠を呼ばせようかと云いましたが、そこらへ出て辻駕籠を拾うからと云って、二人は細雨こさめのふる中を出て行きました
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まして飛騨山中の冬の夜は、凍えるばかりに寒かった。霧に似たる細雨こさめは隙間もなく瀟々しとしと降頻ふりしきって、濡れたる手足は麻痺しびれるように感じた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その挨拶ながら私が赤坂の家をたずねたのは、あくる日のゆう方で、六月なかばの梅雨つゆらしい細雨こさめがしとしとと降っていた。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その日は朝から陰っていて、霧だか細雨こさめだか判らないものが時どきに山の上から降って来て、山ふところの宿は急に冬の寒さに囲まれたように感じられた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから四日ほど過ぎると朝から細雨こさめが降った。どこやらでからからからという声が聞えた。甥は学校へ行った留守であったので、妻と下女とはその声を尋ねて垣の外へ出た。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
出発の朝はどんよりくもって、なんだか霧のような細雨こさめが時々に降って来るらしいので、どうしようかと一旦は踌躇したのですが、汽車の時間まで先方へ報らせてあることでもあり
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夜は暗く、殊に細雨こさめが降っている。一方には橋の修繕工事用の足場が高く組まれている。それに列んで仮橋が架けられている、木材や石のたぐいを積み込んだ幾艘かの舟も繋がれている。
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その日も朝から細雨こさめが降っていたが、暮れ六つごろからやんだ。店口は人出入りが多いので、お峰親子は裏木戸から抜け出すと、文次郎は路地口に待合せていて、二人の先に立って行った。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
入梅に近いこの頃の空は曇り勝ちで、きょうも宵から細雨こさめが降っていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
逃れたのは嬉しいが、さて其先そのさき種々いろいろの困難がよこたわっていた。みち屡々しばしば記す通りの難所なんじょである、加之しか細雨こさめふる暗夜あんやである。不知案内ふちあんないの女が暗夜にの難所を越えて、つつがなく里へ出られるであろうか。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けむのような細雨こさめが毎日しとしとと降りつづいた。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蓋平がいへい宿とまった晩には細雨こさめが寂しく降っていた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
細雨こさめふりいず、玉虫は空を仰ぐ。)
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)