紙片しへん)” の例文
そう云って、多田刑事は、小さい紙片しへんを手渡した。警部はけもののように低くうなりつつ、多田の聞書というのを読んだ。「よし、会おう」
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし想像はどこまでも想像で新聞は横から見ても縦から見ても紙片しへんに過ぎぬ。だからいくら戦争が続いても戦争らしい感じがしない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その店さきのガラス戸や内の鴨居かもいなどには赤い短冊たんざくのような紙片しへんを貼ってあるのが見えた。それは謙作が見慣れている支那街の色彩であった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
紙片しへんと鉛筆を出して姓名を請うたら、斗満大谷派説教場創立係世並よなみ信常しんじょう、と書いてくれた。朝露のは子供にほんを教え、それから日々夫婦で労働して居るそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ガラリと弓を投げすてた蔦之助は、紙片しへんの落ちたところを目ざして、息もつかさずにかけだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その六じょう行燈あんどんしたに、つくえうえからされたのであろう、こし付根つけねからしただけを、いくつともなくいた紙片しへんが、十まいちかくもちらばったのを、ときおりじろりじろりとにらみながら、薬罐やかん湯気ゆげ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ガーゼの中には、果して小さく折った紙片しへんが入っていた。彼は口も使って苦心の結果、その手紙というのを開くことに成功した。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
長安ながやすは、そういわれてなにげなくいてみると、懐紙かいしをさいて蝶結ちょうむすびにでもしたような紙片しへん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
艇長の蜂谷学士はちやがくしは、手を伸ばして、進少年のさしだす紙片しへんをうけとった。その上には次のような電文がしたためられてあった。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
バサッとへいをきって、直垂ひたたれそでをたくしあげ、四方へつるをならすしきをおこなってから紫白しはくふたいろこまかい紙片しへんをつかんで、だんの上から試合しあい広庭ひろにわゆきのようにまきちらす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとり言をいって、暗号器から一枚の紙をぬきだしてほっと一息つくと、その紙片しへんを八つに折りたたんで、革製の名刺入れのなかにつっこんだ。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてメリー号がまだ入港しない先から、旗をふったり、五彩ごさい紙片しへんをばらまいたりして、ものすごい熱狂ぶりであった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
通信係の六角進ろっかくすすむ少年は、受話器を耳にかけたまま、机の上に何かしきりと鉛筆をうごかしていたが、やがて書きおえると、ビリリと音をさせて一枚の紙片しへんいで立ち上った。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
博士は、無言のままうなずいて、私たちに椅子を指すと、自分は再び椅子に腰をおろした。私たちの囲んだ机の上には、何をやっているのか分らないが、おびただしい紙片しへんが散らばっていた。
といって、青竜王は何か小さい紙片しへんを見せた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)