篤実とくじつ)” の例文
旧字:篤實
楼上ろうじょうの接客室で逢いましたが、その容貌ようぼうは温厚篤実とくじつでその中に威儀凜然りんぜんとして侵すべからざる一種の徳を備え英語もなかなかよく出来る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
篤実とくじつ謹厚きんこうと見えたが、その裏には、邪智じゃち佞才ねいさいもあった。上下に気うけがよかったが一面には自分へ追従軽薄をなすものを歓ぶふうもあった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
治兵衛はこう言って首垂うなだれました。見たところ四十前後、大家たいけの主人らしい落着きと品の中にも、何となく迷信深そうな、篤実とくじつらしさも思わせます。
山岸さんは、私たちの先輩の篤実とくじつな文学者であり、三田君だけでなく、他の四、五人の学生の小説や詩の勉強を、誠意をもって指導しておられたようである。
散華 (新字新仮名) / 太宰治(著)
人の狼なるは狼の狼なるよりも可惧おそるべく可悪にくむべし篤実とくじつ外面げめんとし、奸慾かんよく内心ないしんとするを狼者おほかみものといひ、よめ悍戻いびる狼老婆おほかみばゝといふ。たくみ狼心らうしんをかくすとも識者しきしや心眼しんがん明鏡めいきやうなり。
幸い相手が、こう云う家業かぎょうに似合わぬ篤実とくじつな男で、かつ自分の不経験を気の毒に思うのあまり、この生意気を生意気と知りながら大目に見てくれたもんだから、どやされずに済んだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の父杉百合之助ゆりのすけ敬神けいしん家にして忠摯ちゅうし篤実とくじつなる循吏じゅんりなりき。彼の母児玉氏は、賢にして婦道あり、姑につかうる至孝、子を教ゆる則あり、仁恕じんじょ勤倹きんけん稼穡かしょくの労に任じ自から馬を牧するに至る。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
丹沢山たんざわやまで会った篤実とくじつな四人の学者たち。それから、っちゃなボクさん。
さて雑誌は益〻ます/\売れるのであつたが、会計くわいけい不取締ふとりしまりひとつには卸売おろしうりあるかせた親仁おやじ篤実とくじつさうに見えて、実ははなはふとやつであつたのを知らずにために、此奴こいつ余程よほどいやうな事をれたのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
温厚篤実とくじつ、今の世には珍らしい人物で、且つ博学で、恐らく大学に業を修したのであろうと、中学校の生意気なのが渡りものと侮って冷かしに行って舌を巻いたことさえあるから、教子おしえごも多く
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日頃篤実とくじつの老師にも似合わず不真面目至極とはおぼしめさぬかな
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人の狼なるは狼の狼なるよりも可惧おそるべく可悪にくむべし篤実とくじつ外面げめんとし、奸慾かんよく内心ないしんとするを狼者おほかみものといひ、よめ悍戻いびる狼老婆おほかみばゝといふ。たくみ狼心らうしんをかくすとも識者しきしや心眼しんがん明鏡めいきやうなり。
○こゝにわが郡中ぐんちゆう山村さんそんに(不祥ふしやうのことなれば地名人名をはぶく)まづしき農夫のうふありけり、老母と妻と十三の女子七ツの男子あり。此農夫性質せいしつ篤実とくじつにしてよく母につかふ。
○こゝにわが郡中ぐんちゆう山村さんそんに(不祥ふしやうのことなれば地名人名をはぶく)まづしき農夫のうふありけり、老母と妻と十三の女子七ツの男子あり。此農夫性質せいしつ篤実とくじつにしてよく母につかふ。
此一家このいつかものすべて篤実とくじつなれば耕織かうしよく勤行よくつとめ小農夫こびやくしやうなれどもまづしからず、善男よきせがれをもち良娵よきよめをむかへ好孫よきまごをまうけたりとて一そんの人々つねうらやみけり。かゝる善人ぜんにんいへに天わざはひくだししは如何いかんぞや。