稽古本けいこぼん)” の例文
わたしは姉の持っている稽古本けいこぼんをよみ尽くして、さらに太喜次さんのところから長唄の稽古本を借り出して来て、無茶苦茶に濫読らんどくした。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あの時、あたしはあなたの傍にいたのよ。あなたは稽古本けいこぼんなんか出して、何だか印をつけたりして、きざだったわね。お稽古も、やってるの?」
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
清元きよもとの師匠のもとからの帰りででもあると見えて、二人とも稽古本けいこぼん小脇こわきにかかえながら橋を渡って来る。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
甚助さんが改めると、娘の稽古本けいこぼんを包んだ風呂敷には灰がいつぱい附いて居ります。香爐でも隱したんでなければ、風呂敷へ灰なんか附くわけはないと申します。
稽古本けいこぼんで見馴れた仮名より外には何にも読めない明盲目あきめくらである。この社会の人の持っている諸有あらゆる迷信と僻見へきけんと虚偽と不健康とを一つ残らず遺伝的に譲り受けている。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
母が十七八の時に手写したと云う琴唄の稽古本けいこぼんを見たことがあるが、それは半紙を四つ折りにしたものへ横に唄の詞をつらね、行間ぎょうかんに琴のしゅ丹念たんねんに書き入れてある
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたしがまだ稽古本けいこぼんのはいったつばくろぐちを抱えて、大門通おおもんどおり住吉町すみよしちょうまで歩いてかよっていたころ、芳町にはかかぐるまのある芸妓があるといってみんなが驚いているのを聞いた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
下寺町の広沢八助に入門し、校長の相弟子たる光栄に浴していた。なお校長の驥尾きびして、日本橋五丁目の裏長屋に住む浄瑠璃本写本師、毛利金助に稽古本けいこぼんを註文したりなどした。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
三尺帯さんじゃくおび手拭てぬぐいを肩にした近所の若衆わかいしゅ稽古本けいこぼん抱えた娘の姿に振向き、菅笠すげがさ脚絆掛きゃはんがけの田舎者は見返る商家のきん看板に驚嘆の眼をみはって行くと、その建続たちつづく屋根の海を越えては二
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふと蘿月は何かそのへんに読む本でもないかと思いついて、箪笥たんすの上や押入の中を彼方あっち此方こっちのぞいて見たが、書物といっては常磐津ときわず稽古本けいこぼん綴暦とじごよみの古いもの位しか見当らないので
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふと蘿月らげつなにかそのへんに読む本でもないかと思ひついて、箪笥たんすの上や押入おしいれの中を彼方此方あつちこつちのぞいて見たが、書物とつては常磐津ときはづ稽古本けいこぼん綴暦とぢごよみの古いものくらゐしか見当みあたらないので
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
稽古本けいこぼんを広げたきりの小机を中にして此方こなたには三十前後の商人らしい男が中音ちゅうおんで、「そりや何をいはしやんす、今さら兄よいもうとといふにいはれぬ恋中こいなかは……。」と「小稲半兵衛こいなはんべえ」の道行みちゆきを語る。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
稽古本けいこぼんを広げたきり小机こづくゑを中にして此方こなたには三十前後の商人らしい男が中音ちゆうおんで、「そりやなにはしやんす、今さら兄よ妹とふにはれぬ恋中こひなかは………。」と「小稲半兵衛こいなはんべゑ」の道行みちゆきを語る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
其処には舟底枕ふなぞこまくらがひっくり返っている。其処には貸本の小説や稽古本けいこぼんが投出してある。寵愛の小猫が鈴を鳴しながら梯子段はしごだんあがって来るので、みんなが落ちていた誰かの赤いしごきを振ってじゃらす。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)