ことほ)” の例文
餅がけたという。立ち振舞に、餅をたべる者と酒を酌む者とが、一つ座にあつまって、聟どのをことほはやしたりする。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうだ、そこにも部落はある。この谿谷の四方八方部落はどこにでもあるのであって、部落の民は朝起きるとまずご主君の寿命をことほぎ次に朝炊をしたためる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と頼めばやがて持ちきたる膳部の外に摺芋すりいも鷄卵たまごを掛けたるを下物さかなとして酒を持ち來り是は明日あす峠を目出度めでたく越え玉はんことをことほぎたてまつるなり味なしとて許されて志しばかりを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
人間のよわいの頂上をことほぐ八十八も旅のうちに過ぎ去って、その後の行蹟はわからない。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おれはお前たちをことほぐぞ!」
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「盲の子連れなどがおりましては、かえって、こよいのおさまたげ、私どもは、蔭にて、ことほぎ申しあげておりまする」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深山のあちこち幽谷の諸所に桜の花が夢のように咲き、様々の小鳥が樹々のこずえで春をことほいで啼いている。ところどころに飛瀑ひばくが懸かり、幾筋かに分れた谿流が岩を洗って流れている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朝廷の御信任も弥篤いやあつく、君臣の分を明らかになし、上宸襟かみしんきんをやすめ奉り、しも衆民にしたわれて、いましようやく長い戦乱の闇を出て世も黎明れいめいことほぎながら
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、本陣の義元へ見参に入れ、幸先さいさきよき味方の勝利をことほごうとて、これへもたらして来たものだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おかど立ちのことほぎにと、奥方や老人どもが、いささか、丹精たんせいこらした膳部です。何もございませぬが、彼らの心根を召し上がっていただければ、どんなに歓ぶかわかりませぬ」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、女神のきみは、あくまで、宋江を初めてみる者とはしていず、お久しぶりゆえ、とことほいで、すぐ侍女に酒を命じた。宋江はがるるままに三こんほどいただいた。女神はまた
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御城下の田や山で、この頃よくきく歌は、光秀様の善政を謳歌おうかし、明智家の開運をことほぐ声だった。実際、領内の御政治は、非難のしようもないほど、行届いて、平和にちていた。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうにおわせば、大晦日おおつごもりには追儺ついなの式、元日には清涼東階せいりょうとうかいの四方拝のおん儀、節会せちえ大饗たいきょうなど、さまざまな行事やら百官のとなえる万歳にことほがれ給う大君であり、あなた方であるものを
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ことほがれても、居間と産屋のあいだを、まごまごして、何か、居たたまれなかった。
この頃ようやく、夜が明けて、海道の松のすがたの一つ一つも鮮やかとなり、東の方、播磨灘はりまなだの水平線と横たわる黎明れいめいの雲のあいだに、真ッ赤な旭日きょくじつが出陣の足なみをことほぐようにさし昇っていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広やかにむしろが敷きのべてあったからだ。しかも各〻の坐るべきところには、白木の折敷おしきと杯とが備えてある。膳部の折敷には、ちょうど出陣か勝軍かちいくさことほぐ時のように、昆布こんぶと栗などが乗っていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)