硫黄いわう)” の例文
やがて碁をうつて居た旭川の客が歸つて往つたので、表二階の方に移つた。硫黄いわうの臭がする鑛泉に入つて、二階にくつろぐ。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
「申松の投網のおもりを盜つたのさ、——硝石せうせき硫黄いわうは生藥屋で賣つて居るが、素人の拵へる火藥は、弱いから本當の鐵砲には使はれないよ」
バビロンの淫婦はなんぢ七頭しちとうの毒竜は爾の馬、火と煙と硫黄いわうとはなんぢ黒檀こくたん宝座みくらの前に、不断の香煙かうえんのぼらしめん。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
僕は顛落てんらくするやうにしてやうやくにして身を支へたが、そこは硫黄いわうさかんに噴出してゐるところで、僕の咽喉のどしきりに硫黄の気でせるのに堪へてゐる。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ぽつんとしたまつ赤なあかりや、硫黄いわうのほのほのやうにぼうとした紫いろのあかりやらで、眼をほそくしてみると、まるで大きなお城があるやうにおもはれるのでした。
月夜のでんしんばしら (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「臆する者、信ぜざる者、等々は火と硫黄いわうの燃ゆる池にてそのむくひを受くべし是第二の死なり。」
うちの中は区役所の出張員しゆつちやういん硫黄いわうの煙と石炭酸せきたんさんで消毒したあと、まるで煤掃すゝはきか引越ひつこしの時のやうな狼藉らうぜきに、丁度ちやうど人気ひとけのないさびしさを加へて、葬式さうしき棺桶くわんおけ送出おくりだしたあとと同じやうな心持こゝろもちである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
硫黄いわうけぶりに咽び、われとわが座よりまろびて
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
硫黄いわうの池も近づくよ
哀音 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
いど硫黄いわうほむら
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
燧石ひうちいしと火打鎌と、火口ほくち硫黄いわう附木ぢや、あんなことはむづかしからう。——そんなたよりない火附け道具で、四年越しの惡戯はできない——焔硝えんせうかな——」
坐浴に使ふ硫黄いわうの匂ひは忽ち僕の鼻を襲ひ出した。しかし勿論往来にはどこにも硫黄は見えなかつた。僕はもう一度紙屑の薔薇の花を思ひ出しながら、努めてしつかりと歩いて行つた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私は一度、Tölzテルツ に行かうと思ひつつ遂にその念願を果さずにしまつた。Tölzテルツ はイーサル川の上流にある町で、沃度ヨード曹達ソーダ硫黄いわうを含んだ鉱泉がくために一つの浴泉地にもなつてゐる。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
あつ硫黄いわうをとかすとも
あの火口ほくち硫黄いわうをつけた稽古矢を、飯倉か巴町ともゑちやうの弓師に見せて來るがいゝ、——誰があつらへた矢か解るだらう。
これは硫黄いわうを主薬としたもので、一夜焚いて退治するのであつた。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
暑さ硫黄いわうをとかすとも
月夜のでんしんばしら (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
稽古矢に火口と硫黄いわうをつけて飛ばし、屋根の上に射込んで、福島嘉平太をおびき出し、屋根の上の怪し火を見窮みきはめるところを生垣立と板塀越しに、槍で突き殺し、その死骸へ
音たてて硫黄いわうふきいづるところより近き木立こだち山蚕やまこゐるなり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
鐵砲足輕の娘が、見やう見眞似で、竹の鐵砲も作り、硝石せうせき硫黄いわうと木炭末を混合して、幼稚な火藥も作れる筈ですが、その鐵砲と火藥で、自分を撃たせたのは、意味のないことです。
やがて倒れた行燈を起して、火打から移した硫黄いわう附木の灯を入れると
火にくべたり、銀のさじでこね廻したり、硫黄いわう