眼光まなざし)” の例文
余はことに彼ヤイコクが五束いつつかもある鬚髯しゅぜん蓬々ぼうぼうとしてむねれ、素盞雄尊すさのおのみことを見る様な六尺ゆたかな堂々どうどう雄偉ゆうい骨格こっかく悲壮ひそう沈欝ちんうつな其眼光まなざし熟視じゅくしした時
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そへてふくろふさけ一段いちだんものすごしおたか決心けつしん眼光まなざしたじろがずおこゝろおくれかさりとては御未練ごみれんなりたかこゝろさきほどもまをとほきはめし覺悟かくごみちひと二人ふたり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
凹んだ眼でしかもいかつく、人を見据える眼光まなざし、髭のない鼻の下、真一文字にむすんだ口角ばった顎——それらはあまりに著しい特徴で、めったに忘れたり
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
アンガスと呼ばれるその青年は珈琲コーヒーを飲みほして、やさしげな眼光まなざしをしながら根気よく女の顔を見据えていた。女は口元でちょっと笑ってまたことばをついだ。
三十五六の、齢の割に頬のけて血色の悪い顔、口の周匝まはりを囲むやうに下向きになつた薄い髭、濁つた力の無い眼光まなざし——「戯談じやうだんぢやない。これでも若い気か知ら。」
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
不愉快そうな三吉の眼光まなざしを受けても、袖の先で鼻の頭をこすったまま勘次はけろりと澄ましていた。
何處か氣脱のした體で由三が眼前めのまえに突ツ立ツても氣が付かなかツた。で聲を掛けると、ソワ/\しな不安な眼光まなざしで、只見で置いて、辛面やツとにツこりして挨拶をするといふ始末。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
もし予備知識なくして、この人に逢ったらその眼光まなざしといい、面長な顔、背丈せたけ、身のこなし、鼻下の髭さえ除けばあるいはフィリップ殿下と早合点するものがないとも限らない。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
人を傷けて亡命せしこと、身を賊寨ぞくさいに托せしことより、怪しきおうなの我を救ひしことまで、一も忌み避くることなかりき。友の手はかたく我手を握りて、友の眼光まなざしは深く我眼底を照せり。
少々わかわかしい口許くちもとと、心の透通るような眼光まなざしを見て、ともすれば我を忘れるばかりになるので、小児こどもは手が空いたが、もう腹は出来たり、退屈らしく皿の中へ、指でくるくるといた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老婦人もその和らかなる眼光まなざしに浪子を包みつつ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
お藤が、左膳の足の下から、顔をおおう毛髪を通して源十郎へうらみの眼光まなざしを送っているのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私がそのニールゼン嬢のおもかげを思い出したと言ったならば、この婦人の持つ美貌、殊に理智的な美しさや、金髪の波うつ生際はえぎわ、幾分憂鬱な眼光まなざしは見せながらも、全体に抱きしめてもみたいほど
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と思ツてつくゑの前へ引返すと、母親はにぶ眼光まなざしまぶしさうに此方こツちを見ながら
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
紅髪こうはつの青年は灰色の眼をあげて重いもよらぬまじめな眼光まなざしをした。