“皮膚(はだ)” の例文
先生は身体全体が冷えてきて、タラタラと無気味なものが皮膚(はだ)を流れるやうであつた。ヂッと耳を澄してゐると、果して又、今度は
群集の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
寒さがギリ/\と、むしろの上から、その下の外套を通して、着物を通して、シヤツを通して、皮膚(はだ)へ、ぢかにつき刺さつてきた。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
渠も直ぐ禮を返したが、少し周章氣味(あわてぎみ)になつてチラリと其男を見た。二十六七の、少し吊つた眼に才氣の輝いた、皮膚(はだ)滑かに苦味走つた顏。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
その折ある地方で、皮膚(はだ)の赤茶けた土人が、地面(ぢべた)に蹲踞(はひつくば)つて玉蜀黍(たうもろこし)の煙管(パイプ)で脂(やに)くさい煙草をすぱすぱやつてゐるのを見かけた。
松脂(まつやに)のような手や首の皮膚(はだ)の色、磁器のような白い眼球(がんきゅう)、上端が鼻の先へ喰着(くっつ)きそうに反(そ)って居る厚い唇、其処(そこ)から洩れて来る不思議な日本語
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼女の皮膚(はだ)は厚化粧をしているかのように白かった。その頬と唇は臙脂(べに)をさしたかのように紅く、その睫(まつげ)と眉は植えたもののように濃く長かった。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「死に花とか申したな、皮膚(はだ)に根をおろして人を殺(あや)める花、あの件はどうなった? やはり刺客の業か」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
地面から裾の中へ蒸し込んでくる熱氣と、上から照りつける日光の炎熱とが、みのるの薄い皮膚(はだ)をぢり/\と刺戟した。みのるの顏は燃えるやうに眞つ赤になつてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
橄欖(かんらん)という果(こ)の実、木の皮をしぼって作ったという、香(にお)いのよい、味のいい、すばらしい油——富みたるものは、それを皮膚(はだ)のくすりとして塗りもすれば、料理にも使って
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
成るほど、頸部の白い皮膚(はだ)に、五本の指痕が紫色を呈して鮮やかに残っていた。大きな木の葉の形に似て、しかも末端のところは、爪が喰入ったらしく、肉が深々と掘られていた。
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
病院へ顔を出す前ちょっと綺麗(きれい)になっておきたい考えのあった彼女は、そこでずいぶん念入(ねんいり)に時間を費やした後(あと)、晴々(せいせい)した好い心持を湯上りの光沢(つやつや)しい皮膚(はだ)に包みながら帰って来ると
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朝枝は痛々しく蝋のような皮膚(はだ)色をしていたが、一方にはまた、烈しい精神的な不気味なものがあって、すべてが混血児という、人種の疾病(しっぺい)がもたらせたのではないかとも思われるのだった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
十二月から三月一ぱいは、夥(おびただ)しい霜解けで、草鞋か足駄(あしだ)長靴でなくては歩かれぬ。霜枯(しもが)れの武蔵野を乾風が飈々(ひゅうひゅう)と吹きまくる。霜と風とで、人間の手足も、土の皮膚(はだ)も、悉く皹(ひび)赤(あか)ぎれになる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
荷車を曳いて行く庄次は強健な皮膚(はだ)が暑い日に光りました。それから荷車の後を押して行くお杉さんも白かつた頬が日に燒けて脊には何時でも小さな子が首をくつたりと俛(うなだ)れて眠つて居ました。
白瓜と青瓜 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「いや、毒なら身體に徴(しるし)がある。お前も『檢屍辨覽』でも讀むが宜い、——唇にも、舌にも、眼瞼(まぶた)にも、皮膚(はだ)にも何んの變化(かはり)のない毒はない筈だ。本道(内科醫)が二人で立會つて診て、何んの變りもないと言つてゐる」
渠も直ぐ礼を返したが、少し周章気味(あわてぎみ)になつてチラリと其男を見た。二十六七の、少し吊つた眼に才気の輝いた、皮膚(はだ)滑らかに苦味走つた顔。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
然(しか)るに第二番目の絵になると、皮膚(はだ)の色がやや赤味がかった紫色に変じて、全体にいくらか腫(は)れぼったく見える上に、眼のふちのまわりに暗い色が泛(うか)み漂(ただよ)い、唇も稍(やや)黒ずんで
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
朝の光が涼しい風と共に流れ込んで、髪乱れ、眼凹(くぼ)み、皮膚(はだ)の沢(つや)なく弛(たる)んだ智恵子の顔が、モウ一週間も其余も病んでゐたものの様に見えた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)