白玉はくぎょく)” の例文
柏葉樹はくようじゅの葉をたくさんにいておいたが、それも今では、真ッ黒に朽ちて、時折、氷よりひややかな白玉はくぎょくえりすじに落してくる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閼伽あかの具はことに小さく作られてあって、白玉はくぎょく青玉せいぎょくで蓮の花の形にした幾つかの小香炉こうろには蜂蜜はちみつの甘い香を退けた荷葉香かようこうべられてある。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それ小児の生れて二、三歳より六、七歳に至るまで、その質たる純然無雑、白玉はくぎょくきずなきがごとく、その脳中清潔にして、いささかの汚点なし。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
その根元に豆菊がかたまって咲いて累々るいるい白玉はくぎょくつづっているのを見て「奇麗ですな」と御母さんに話しかけた。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼奴等あいつら可憐いとしいヂュリエットの白玉はくぎょくつかむことも出來でくる、またひめくちびるから……その上下うへしたくちびるが、きよ温淑しとやか處女氣をぼこぎで、たがひに密接ひたふのをさへわるいことゝおもうてか
彼はじつに末頼もしい活溌な青年であったが、十八歳を一期として白玉はくぎょく楼中ろうちゅうの人となった。
私の子供時分 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
麻布山下あざぶやました町の赤森あかもり家の宝物を手にいれてみせる。赤森家には、中国の大むかしの白玉はくぎょくの仏像が五つそろっている。てのひらにのるような小さなものだが、天下にひびいた名宝だ。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
杭州こうしゅうに美女あり、そのおもて白玉はくぎょくの如く、夜な夜な破狼橋はろうきょうもとに来って妖童ようどうを見る……」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
煙は雪の振袖をふすべた。炎は緋鹿子ひがのこを燃え抜いた。緋の牡丹ぼたんが崩れるより、にじが燃えるより美しかった。恋の火の白熱は、って白玉はくぎょくとなる、そのはだえを、氷った雛芥子ひなげしの花に包んだ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人の書いた立派な著書の中から白玉はくぎょく微瑕びかのような一、二の間違いを見付けてそれをさもしたり顔に蔭で云いふらすのなどもその類であるかもしれない。これは悪口でなく本当にある現象である
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
またまとい給う銀紗ぎんしゃのおんから、藍田らんでんの珠の帯やら白玉はくぎょくのかざりにいたるまで、光燿こうようそのものの中にあるおすがただった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歌はしばし絶えて弓擦る音の風誘う遠きより高く低く、ウィリアムの耳に限りなき清涼の気を吹く。その時暗き中に一点白玉はくぎょくの光が点ぜらるる。見るうちに大きくなる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
沖の辰巳島たつみじまから、まともに吹きあげてくる海風に、身ぶるいをした巨松のこずえが、振るい落した白玉はくぎょくしずく——。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は常に所持している白玉はくぎょくさかずきを、一同の見ている前で、床に投げつけて打ち砕いた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翡翠ひすい白玉はくぎょくなら、わたしの帯の珠に造らせるのに」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)