癇高かんだか)” の例文
姐さんたちは、自分たちをお客に聘ばせて呉れた恩人のお雛妓の顔を立てて、ばつを合せるようにきゃあきゃあと癇高かんだかく笑った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
柳吉の声で「ああ、お、お、お、おばはんか、親爺は今死んだぜ」「ああ、もし、もし」蝶子の声は癇高かんだかふるえた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
と、かつて聞かないほどな癇高かんだかい声で一かつされ、三名は、あっと云うなり道を駈け降りて、御所内のほりの吊橋を、飛ぶが如く、もう彼方へ急いでいた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茶の間の方では、癇高かんだかい妻のおひやくの声や内気らしい嫁のおみちの声がにぎやかに聞えてゐる。時々太い男の声がまじるのは、折からせがれ宗伯そうはくも帰り合せたらしい。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「おゆみさん! 電気つけておくれッ。」お上さんの癇高かんだかい声がする。おゆみさんか、おゆみとはよくつけたものなり。私の母さんは阿波あわの徳島十郎兵衛。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
だんだん調べてみると、飼馬はかの怪しい馬の声を恐れるらしい。その証拠には、かの馬の声のきこえた翌日は、どこの馬もみな癇高かんだかになって物におどろき易くなる。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それはパトリツク・カムベル夫人といふ女優で、鶏のやうな癇高かんだかい調子を持つた女だつた。
しかもその糺問きゅうもんの声は調子づいてだんだん高められて、果ては何処どこからともなくそわそわと物音のする夕暮れの町の空気が、この癇高かんだかな叫び声で埋められてしまうほどになった。
卑怯者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
するとそれが一種の癇高かんだかい、さも昂奮こうふんおさえたような調子になって響いて来た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぐづねてゐたのは「よし、帰つたる、帰つたら文句ないやろ、五十銭かへせ」とわめきちらし、女は女で息をはずませて癇高かんだかく——「一旦もろたもんが返せるもんか」なぞと叫びつつ、やがて
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
すると角ちやんは、真面目まじめな顔をして、少し癇高かんだかい声でうたひはじめた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
お前を尊敬する全ての男はお前を貨物自動車にのったヴィクトリア女皇だとめたたえる。俺の愛は昨日よりも深くお前を愛する。すると彼女の癇高かんだかい水銀色の声が市内の電線を引ちぎってしまう。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
貞子が押えつけるような、少し癇高かんだかな声で
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ヒステルカルに癇高かんだかく笑い続けていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
声は段々癇高かんだかい泣声に成って行った。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
のたうつ癇高かんだかいさけび
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
茶の間の方では、癇高かんだかい妻のおひゃくの声や内気らしい嫁のおみちの声がにぎやかに聞えている。時々太い男の声がまじるのは、折からせがれ宗伯そうはくも帰り合せたらしい。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
レムブルグが朝の情熱に癇高かんだかい声をふるわして云った。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
電話のせゐか、ふだんより癇高かんだかい声だつた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
思わずそのせいで声が癇高かんだかく走った。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
交互に見て癇高かんだかい声で言った。
ガルスワーシーの家 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かう気のついた彼は、すぐに便々べんべんとまだ湯に浸つてゐる自分の愚を責めた。さうして、癇高かんだかい小銀杏の声を聞き流しながら、柘榴口を外へ勢ひよくまたいで出た。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そうして、癇高かんだかい小銀杏の声を聞き流しながら、柘榴口を外へ勢いよくまたいで出た。外には、湯気の間に窓の青空が見え、その青空には暖かく日を浴びた柿が見える。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、俊助は下を向いたまま、まるでその癇高かんだかい笑い声が聞えないような風をしていたが、やがてあの時代のついた角帽のひさしへ手をかけると、二人の顔を等分に眺めながら
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おれはお前程巧妙なトラジツク・コメデイアンを見た事はない。——おれが心の中でかうつぶやくと、猿は突然身ををどらせて、おれの前の金網かなあみにぶら下りながら、癇高かんだかい声で問ひ返した。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これからはらいそへはいろうとするのに、用もないなげきにふけっているのは、勿論宗徒しゅうとのすべき事ではない。じょあん孫七は、苦々にがにがしそうに隣の妻を振り返りながら、癇高かんだかい声に叱りつけた。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ことに、了哲りょうてつが、八朔はっさくの登城の節か何かに、一本貰って、嬉しがっていた時なぞは、持前の癇高かんだかい声で、頭から「莫迦ばかめ」をあびせかけたほどである。彼は決して銀の煙管が欲しくない訳ではない。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
叔母ば半ばたしなめるように、癇高かんだかいお絹の言葉を制した。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)