独子ひとりご)” の例文
しかれどもこの人こそ世界の救主きゅうしゅにして神の独子ひとりご人類の王にあらずや、実に然り、霊魂を有する人類には事業に勝る事業あるなり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
源叔父の独子ひとりご幸助海におぼれてせし同じ年の秋、一人の女乞食日向ひゅうがかたより迷いきて佐伯の町に足をとどめぬ。ともないしは八歳やっつばかりの男子おのこなり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一年の月日は母子の破綻はたんを繕いぬ。少なくも繕えるがごとく見えぬ。母もさすがに喜びてその独子ひとりごを迎えたり。武男も母に会うて一の重荷をばおろしぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
なんじの愛する独子ひとりご、すなはちイサクをたずさへ行き、かしこの山の頂きにおいて、イサクを燔祭はんさいとしてささぐべし。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
秋萩を妻鹿こそ、一子ひとりごに子たりといへ、鹿児かこじもの吾が独子ひとりごの、草枕旅にし行けば、竹珠たかだましじき垂り、斎戸いはひべ木綿ゆふでて、いはひつつ吾が思ふ吾子あこ
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
言葉は私を言い現わしてくれないとしても、その後につつましやかに隠れているあの睿智えいち独子ひとりごなる暗示こそは、裏切る事なく私を求める者に伝えてくれるだろう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「子なる神」というのは、イエスをば神から遣わされた「神の独子ひとりご」として信じ、したがってイエスは歴史的な人間であるとともに、神性をもつ神であると信ずる信仰である。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
これと同じく我等が罪の奴隷となりて悲しむべき境遇に陥る時に、神は其の独子ひとりごイエス・キリストを遣はして我等を罪の囚禁より救ひ出して、永生かぎりなきいのちをもつべきこのつとめに導きたまふなり。
主のつとめ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
魂の深底においてヨブは神の独子ひとりごを暗中に求めて、人心本来の切願を発表したのである。げに独子を求むるは人心おのずからのさけびである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
源が歌う声えまさりつ。かくて若き夫婦のたのしき月日は夢よりも淡く過ぎたり。独子ひとりご幸助こうすけ七歳ななつの時、妻ゆりは二度目の産重くしてついにみまかりぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
自分の事すら次の瞬間には取りとめもないものを、他人の事——それはよし自分の血を分けた大切な独子ひとりごであろうとも——などを考えるだけがばかな事だと思った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
独子ひとりごの身は妹まで添えて得たらん心地ここちして「浪さん、浪さん」といたわりつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
神、その独子ひとりご、聖霊及び基督の御弟子みでしかしらなる法皇の御許によって、末世の罪人、神の召によって人を喜ばす軽業師かるわざしなるフランシスが善良なアッシジの市民に告げる。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
桂港かつらみなとにほど近き山ふところに小さき墓地ありて東に向かいぬ。源叔父の妻ゆり独子ひとりご幸助の墓みなこの処にあり。「池田源太郎之墓」と書きし墓標またここに建てられぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
神はその独子ひとりごを賜うほどに世の人を愛し給えりという事は、人間の智慧を以てしては到底解らない。天然研究貴しといえども、神のいかなる者なるかはこれによっては解らない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
彼は遂にその独子ひとりごを世にくだし給うて、罪人を義とすると共にまたみずから義たるの道をひらき、遂に千古の難問を解決したのである。しかしてこの難問題は実にヨブ記の九章二節にその源を発したのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)