漂泊さすらい)” の例文
畿内きない、東海、東山、山陰、山陽、北陸、南海と、彼は漂泊さすらいの旅路に年を送り年を迎え、二十七の年まで空虚な遍歴の旅を続けた。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あの漂泊さすらいの芸人は、鯉魚の神秘をた紫玉の身には、もはや、うみ汁のごとく、つばよだれの臭い乞食坊主のみではなかったのである。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今度はう諦めたのか、ただしは病中の為か、流石さすがのお杉も執念深く追っては来なかったので、これを幸いに重蔵は又もや漂泊さすらいの旅路にのぼった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三年、五年の漂泊さすらいも、その間のえや艱難も、むしろこの一瞬ひとときの幸福を大きくするために越えて来たもののようであった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四海を治め給う御方でも、私共のような漂泊さすらいの小坊主でも、眼が見えなくなりましては世間は闇でございます……
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それでコックの春吉はすっかり憤慨ふんがいし、この復讐ふくしゅうを計画したわけなのだ。彼は元々もともと、極端な享楽児きょうらくじで、趣味のために、いろいろな職業を選び、転々てんてんとして漂泊さすらいをした。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あの方のために自分はこうした漂泊さすらいの身になった、たちばなの小嶋の色に寄せて変わらぬ恋を告げられたのをなぜうれしく思ったのかと疑われてならない。愛も恋もさめ果てた気がする。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
(額をこする)何を言ってたんだっけ? そう……ツルゲーネフね……「しゅよ、ねがわくは、すべての寄辺よるべなき漂泊さすらいびとを助けたまえ」……いいの、なんでもないの。(むせび泣く)
胸にい入るように哀れに感じられたりして、私は、どうすることも出来ないような漂泊さすらいの悲哀と寂寞せきばくとに包まれながら、ようやくのことで、その宿で第一の夜を明かしたのであった。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
焼和尚は、女を好きなばかりでなく、絵画や彫刻や陶器類が好きで、彫り物師とか画家とかいえば、どんな身窄みすぼらしい姿をした、乞食のような漂泊さすらいの者でも、きっと、幾日でも泊めてやったものだ。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
漂泊さすらいの旅の二十年! 早く故郷へ帰りたいものだ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
柄杓とともに、助手を投出すとひとしく、俊明先生の兀頭はげあたまは皿のまわるがごとくむきかわって、漂泊さすらいの男女の上に押被おっかぶさった。
その点、宮本武蔵を語るには非常な明るさがある。他の漂泊さすらい歌人の出家や、涙痕るいこん行脚者あんぎゃしゃを想うほどないたみがない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去年から今年にかけて、故国の動乱を避けて、漂泊さすらいの旅に出た露西亜の音楽家達が、幾人も幾人も東京の楽壇をにぎわした。其中そのなかには、ピアノやセロやヴァイオリンの世界的名手さえ交っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
十数年前に窩人達は漂泊さすらいの旅へ上ったのだから。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
失意の漂泊さすらいをつづけていた一介の浪人は、またたちまち濮陽城ぼくようじょうあるじだった。先に曹操を思うさま痛めつけて、城兵の士気はいやが上にもたかまっていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
漂泊さすらいの旅は長かった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山岳切支丹族きりしたんぞくは、もとより秘密の集団です。禁制の宗教を奉じて、山から山を移り棲む、漂泊さすらいの民です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一軍の漂泊さすらいは、こうして再び続いた。夜ごとに、月は白く小さく、曠野は果てなくまた露が深かった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浅草火除ひよ賭試合かけしあいの小屋を立ち退いた後、奥州街道で春日重蔵を返り討ちにしようとしたが、人違いだったので、そのまま旅から旅の漂泊さすらいを重ね、中仙道を経て
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下って足利氏あしかがしが世を暴奪ぼうだつなし終った乱麻らんまの時代となってはしのび上げるも畏れ多いことながら、後村上天皇は、男山御脱出以来、軍馬の間を彼方此方あちこち御輦みくるま漂泊さすらいを経られて
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから考えても、中年期は住所を定めず、漂泊さすらいの修業をつづけていたことがわかる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)