)” の例文
小谷間こたにあいの、いささか風雨を避けた地点ところに、白髪頭を土にり込まして、草加屋伊兵衛の血だらけの屍骸むくろが、仰向けに倒れていた。
お前たちには、その資格が無いのです。日本の綺麗な兵隊さん、どうか、彼等をっちゃくちゃに、やっつけて下さい。
十二月八日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
折からの旱天かんてんにもげず、満々たる豊かさをひびかせて、富士の裾野のいかにも水々しい若さを鮮やかに印象している。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
花のさえ重きに過ぐる深きちまたに、呼びわしたる男と女の姿が、死の底にり込む春の影の上に、明らかにおどりあがる。宇宙は二人の宇宙である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
虎は目鼻から血をき出す。うめきは全山を震撼しんかんする。さらに蹴る。打ちに打ちのめす。苦しさの余り虎は腹の下の土を掘った、虎のからだの両側に小山ができる……。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の身体の重みで踏みしめている湿っぽい落葉がギシギシとり込む音すらが、あたりの静けさを破って、今にもこのくらい森の奥から何者かが、私の首筋でも引っ掴みそうな
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
欠伸あくびのような気のぬけた声を立てて、ばったりと平ったくつッ伏してしまった。蒼白い顔がぐんにゃりと潰れたように古い畳にり込んで、瞳がどんよりと開けられたきり動かなかった。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
と千鶴子は額に手を翳し、飛び散る泡にもげず云った。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
少女の眼は入りんだ私の胸をかろくさせた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ただ汽車を下りるや否やみそうな精神が、真直まっすぐな往来の真中にほうり出されて、おやと眼を覚したら、山里の空気がひやりと、夕日の間から皮膚をおかして来たんで
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文章も、しどろもどろの茶苦茶ちゃくちゃだ。麻のごとくに乱れてります。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
順当に乗り込んだのならまだよかったけれども、片方の輪だけが泥の中へぐしゃぐしゃとむと同時に、片方は依然として固い土に支えられている。余は泥側どろがわに席を占めていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「鳴かぬ烏の闇にり込むまでは……」と六尺一寸の身をのして胸板をつ。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水行くほかに尺寸せきすんの余地だに見出みいだしがたき岸辺を、石に飛び、岩にうて、穿草鞋わらんじり込むまで腰を前に折る。だらりと下げた両の手はかれてそそぐ渦の中に指先をひたすばかりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの錦襴も織りたては、あれほどのゆかしさも無かったろうに、彩色さいしきせて、金糸きんしが沈んで、華麗はでなところがり込んで、渋いところがせり出して、あんないい調子になったのだと思う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小野さんがこの瞬間にこの美しい画を捕えたなら、編み上げのかかとを、地にり込むほどにめぐらして、五年の流を逆に過去に向って飛びついたかも知れぬ。惜しい事に小野さんは真向まむきに坐っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)