渋谷しぶや)” の例文
旧字:澁谷
その翌日、あけみはうちにいたたまれなくて、渋谷しぶやの姉の家を訪問したが、夕方帰って来たときには、一層痩せおとろえて見えた。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たとえば東京では二十年前まで、目黒・渋谷しぶやの娘たちも仕事着になると、平気で肥料車こえぐるまの後押しをして市内に入って来た。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
だけれど家の先生は相変らずだし、どうにも仕様がないから、ついこの間まで渋谷しぶやの小さいカフェーに働いていたのよ。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それで今は渋谷しぶやに一軒手頃な家をかりていますの。どうせ手狭なものですけれど、でもちょっと手のかかった落着きのいい座敷もございますのよ。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
赤坂あかさかから青山の通りをぬけ——そこらはみんなむざんな焼跡やけあとだった——それから渋谷しぶやへ出た。渋谷も焼けつくしていたがおまわりさんがつじに立っていた。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
渋谷しぶや道玄坂どうげんざか辺は大変な繁昌で、どうして、どうして、この辺どころじゃありませんよ。」と、彼は云った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一縷いちるの望みだけをつないで、また車をつかまえると「渋谷しぶや、七十銭」と前二回とも乗った値段をつけました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
渋谷しぶや金王桜こんおうざくらの評判が、洗湯せんとうの二階に賑わう頃、彼は楓の真心に感じて、とうとう敵打かたきうちの大事を打ち明けた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
渋谷しぶやから玉川電車たまがわでんしゃに乗った。東京の市街がどこまでもどこまでも続いているのにいつもながら驚かされた。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
渋谷しぶやの美術村は、昼は空虚からっぽだが、夜になるとこうやってみんな暖炉ストーブ物語を始めているようなわけだ。其処そこへ目星を打って来たとはふるっているね。考えてみれば暢気のんきな話さ。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
あの晩あの雨に品川しながわまで送らせまつり、お帰りの時刻には吹きぶり一層くわわり候やうなりしに、ことにうすら寒き夜を、どうして渋谷しぶやまで着き給ひし事かと案じ/\致し候ひし。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
西郷従道さいごうつぐみち目黒めぐろの大邸宅、大山巌おおやまいわおの青山穏田おんでんの大邸宅、海江田信義かいえだのぶよし渋谷しぶや桜丘台の大邸宅、芝三田の松方正義まつかたまさよしの山林のような大邸宅のごときは、じつに広大なものであったが
彼等が千歳村ちとせむらに越して間もなく、玉川電鉄は渋谷しぶやから玉川まで開通したが、彼等は其れすら利用することが稀であった。田舎者は田舎者らしく徒歩主義とほしゅぎを執らねばならぬと考えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
自分は二十九年の秋の初めから春の初めまで、渋谷しぶや村の小さな茅屋ぼうおくに住んでいた。自分がかの望みを起こしたのもその時のこと、また秋から冬の事のみを今書くというのもそのわけである。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
渋谷しぶや、あふひ邸。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
黄金仮面はきょう午後七時に、渋谷しぶや区の一軒のあき家へやってくることがわかった。そこで、きみたち少年探偵団の手を、かりたいのだ。
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
品川方面ゆきの省線電車が新宿しんじゅく代々木よよぎ原宿はらじゅく渋谷しぶやて、エビス駅を発車し次の目黒駅へ向けて、およそその中間と思われる地点を、全速力フル・スピードで疾走していた。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかしその分類は例えば谷という処に日比谷ひびや谷中やなか渋谷しぶや雑司ぞうしなぞを編入したように、地理よりも実は地名の文字もんじから来る遊戯的興味にもとづいた処がすくなくない。
家を畳んで、そのころ渋谷しぶやの方のある華族の邸に住み込んでいた父親が、時々羽織袴はおりはかまのままでここへ立ち寄ると、珍らしい菓子などをたもとから出して正一にくれなどした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
東京の銀座に大きな店をもち、宝石王といわれている玉村たまむら宝石店の主人、玉村銀之助ぎんのすけさんのすまいは、渋谷しぶや区のしずかなやしき町にありました。
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
丁度小学校をよして裁縫のけいこにかよっていた時である。お妾さんは日比谷ひびや公園の避難先から直様すぐさま渋谷しぶやへ家を借りたが、おたみは裁縫をならいに家を出たまま帰って来なかった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
渋谷しぶや鶯谷うぐいすだにアパート」
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
少年探偵団員のひとり、小泉信雄こいずみのぶおという小学校六年生の少年が、学校からの帰り道、ただひとり、渋谷しぶやのある小さな公園の中を通りかかりました。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
明治十四年刊行の『文雅人名録』にも「服部南梁名元彰芝森元町二丁目三番地」としてある。明治二十五年に至って服部氏の家は地主の変ったため転居を強いられ渋谷しぶやの某処に移ったという。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのあくる日の夕がた、ユウ子ちゃんのおうちのある渋谷しぶや区で、つぎつぎとふしぎなことがおこりました。
赤いカブトムシ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
渋谷しぶや駅の近くの盛り場も、電灯が消えて、すっかり暗くなっていましたが、それでも帰りのおそい人たちが、戸をしめた商店の前を、おおぜい歩いていました。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ある日の午後、井上君は、渋谷しぶや区のはずれのさびしい町をあるいていました。ふと気がつくと、道のわきに、草のはえた空地あきちがあって、そこに人だかりがしているのです。
妖星人R (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
渋谷しぶやの向うの三軒家の淋しい傍道に乗り捨ててあったのです。ただ自動車だけなれば、こんなに早く知れる筈はないのですが、赤蠍の奴、又例のいたずらをやっているのです。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「温泉で名刺を貰っていました。何でも渋谷しぶや辺の、ずっと郊外の様に記憶しています」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ある夕がた、渋谷しぶや区のやしき町を、ふたりの少年が歩いていました。もとボクサーのおとうさんをもつ井上一郎いのうえいちろう君と、すこしおくびょうだけれども、あいきょうものの野呂一平のろいっぺい君です。
魔法博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
地下鉄のプラットホームにおりると、そこに、渋谷しぶや行きの電車がとまっていました。サンドイッチマンは、それに乗りこみ、二少年も、相手に気づかれぬように、同じ電車に乗りました。
鉄人Q (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、やがて、明智探偵の車は、渋谷しぶや区にはいり、だんだん、さびしい町へ進んでいきます。そうなると、相手に気づかれないためには、二つの車のあいだを遠くしなければなりません。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)