あわ)” の例文
さては己より前に蟹がそこへ来てはや穴を掘って住んでいやがるかと不審してそこへ下りて耳を穴に当て聴いて見るとブツブツと蟹のあわ吹く音がする
そのあわは緑銭の水渭すいいに浮かべるがごとし(一六)。唐の詩人盧同ろどうの歌ったのはこのような立派な茶のことである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
或は激湍げきたんあわを吹いて盛夏なほ寒しといふ白玉はくぎよくたにがは、或は白簾はくれんにじを掛けて全山皆動くがごとき飛瀑ひばくの響、自分は幾度足を留めて、幾度激賞の声を挙げたか知れぬ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
かれその底に沈み居たまふ時の名を、そこどく御魂みたまといひ、その海水のつぶたつ時の名を、つぶ立つ御魂みたまといひ、そのあわ咲く時の名を、あわ咲く御魂みたまといふ。
白いあわが、その上を回転して、両崖の森林を振りかえりながら、何か、わざわいの身に迫るのを、一刻も早くげたいというように、後から後から、押し合って、飛んで行く。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
みずあわに浮んでいるこまかい砂の如くに、恋死こいじにもせずに果敢はかなくも生きているのか、というので、物に寄せた歌だから細砂のことなどを持って来たものだろうとおもうが
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
阿Qは壁にむかって跪坐きざし、これも神威に打たれていたが、この時両手をついて無性ぶしょうらしく腰を上げ、いささかあわを食ったようなていでドギマギしながら、帯の間に煙管を挿し込み
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
吾心頭には稻妻の如く昔のおそろしかりしさま浮びたり。またゝくひまに街の兩側に避けたる人の黒山の如くなる間を、兩脇より血を流し、たてがみそよぎ、口よりあわ出でたる馬は馳せ來たり。
こぶしを揚げて卓をたたくやら、椅子いすを離れて大股おおまたに歩き回るやらしたあとで、口からあわを飛ばして言うことには、条約許容とは何事であるか、大英国と日本とは前年すでに結んだのを知らないのか
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
馬蛤の穴を刎飛はねとんで、田打蟹たうちがにが、ぼろぼろ打つでしゅ、泡ほどの砂のあわかぶって転がってげる時、口惜くやしさに、奴の穿いた、おごった長靴、丹精に磨いた自慢の向脛むこうずねへ、このつばをかッと吐掛けたれば
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風があわを吹きあつめて高さ数百丈となるを見、海中に雪山あり、そのうち快楽、甘果ほしいままに口にすと聞いたが今日始めて見る、われまず往き視て果して楽しくば還らじ
「畜生!」阿Qは眼にかどを立て口の端へあわを吹き出した。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
後なる車ける馬のあわは我耳にそゝげり。