水際みぎわ)” の例文
しんとしてさびしい磯の退潮ひきしおあとが日にひかって、小さな波が水際みぎわをもてあそんでいるらしく長いすじ白刃しらはのように光っては消えている。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
今拵えた花綵を池の水際みぎわに浸していましたが、それが水の中から咲き出たようにさざなみに揺られて、二つにも三つにも屈折して見えました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
が、その声がまだ消えない内に、もうあの猪首の若者は、さらに勝敗を争うべく、前にも増して大きい岩を水際みぎわの砂から抱き起していた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれど二人とも、満身あけにまみれ、そこの水際みぎわまで来ると、「残念」といいながら、はや歩む力もなく坐ってしまった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黯青あんせいに光る空。白く光る水。時々ポチャンと音して、魚がはねる。水際みぎわの林では、宿鳥ねどりが物に驚いてがさがさ飛び出す。ブヨだか蚊だか小さな声でうなって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
十四郎の妻の滝人たきとは、こうして一時間もまえから、沼の水際みぎわを放れなかったのである。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
水際みぎわに立って、折から引汐ひきしおの川底ばかりにらんでいた平次も、あきらめて立ち上がります。
東の空には八ヶ嶽が連々としてそびえ連なり、北には岡谷の小部落が白壁の影を水に落とし、さらに南を振り返って見れば、高島城の石垣が灰色なして水際みぎわそばだち、諏訪明神の森の姿や
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船頭は驚いたように言って艪をぐいとひかえて、舳を陸にして一押し押した。と、舟はすぐ楊柳の浅緑の葉の煙って見える水際みぎわすなにじゃりじゃりと音をさした。許宣は水際へ走りおりた。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜にして始めて霊夢を蒙り、その払暁あかつき水際みぎわ立出たちいでて
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
水際みぎわなるあしの一葉も紅葉せり
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
彼は今も相手の投げた巌石を危くかわしながら、とうとうしまいには勇をして、これも水際みぎわよこたわっている牛ほどの岩を引起しにかかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
余が明治三十六年の夏来た頃は、汽車はまだ森までしかかゝって居なかった。大沼公園にも粗末そまつな料理屋が二三軒水際みぎわに立って居た。駒が岳の噴火も其後の事である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
病人にすくって持って行くよりも、城太郎はふと、自分が先に飲みたくなったのであろう、五、六歩位置を移して、今度は水際みぎわに膝をつき、家鴨あひるのように水面へ首を伸ばしたが
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町人まちびとはみなこの小川にてさまざまのもの洗いすすげど水のやや濁れるをいとわず、流れには板橋いくつかかかりて、水際みぎわには背低きかえでをところどころに植えたる、何人の思いつきにや
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
背後うしろの山に落ちかけた夕陽の光が、紅葉しかけた前山ぜんざんの一角を赤赤と染めていた。彼は水際みぎわにおりるのをめて藤葛を見つめていたが、どうもその藤葛に山上へ登る秘密があるように思われて来た。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼等はもうその時には、みんな河原の水際みぎわにより集まって、美しい天の安河の流れを飛び越えるのに熱中していた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから車で大津に帰り、小蒸汽で石山に往って、水際みぎわの宿でひがいしじみの馳走になり、相乗車で義仲寺ぎちゅうじに立寄って宿に帰った。秋雨あきさめの降ったり止んだり淋しい日であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その冷ややかな陰の水際みぎわに一人の丸くふとッた少年こどもが釣りをれて深い清いふちの水面を余念なく見ている、その少年こどもを少しはなれて柳の株に腰かけて、一人の旅人、零落と疲労をその衣服きもの容貌かおに示し
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
武士はさきに立って歩いて行ったが、水際みぎわに出ると毅を見返った。
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼はそろそろと岩のかどいおりて水際みぎわに近づこうとした。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)