水母くらげ)” の例文
末遠いパノラマのなかで、花火は星水母くらげほどのさやけさに光っては消えた。海は暮れかけていたが、その方はまだ明るみが残っていた。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
二つの落下傘が、あとになり先になり、巨大な水母くらげの様に、フワリフワリと落ちて来る光景は、世にもすばらしい見ものであった。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
海は日毎ひごとに荒模様になって行った。毎朝、なぎさに打ち上げられる漂流物の量が、急にえ出した。私たちは海へはいると、すぐ水母くらげに刺された。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私の膝の上に、私の腕の中に、惜しげもなく投げ出されてる彼女の肉体は、軟骨質の水母くらげ——もしそういうものがあれば——それのようだった。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
自然は水母くらげの化石を百万年の後に残し、人間の夢は今この雪の結晶を十年博物館の一隅に設えて、暖国に育った子供達に顕微鏡を覗かせたいと願う。
雪の化石1 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しかし不思議なのはその身体です。これはまるで水母くらげのように透きとおっていて、よほど傍へよらないと見えません。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
近づいて見るとそれは、海にある何等かの潮流と界を接する燐光体の濃厚な集群で、海生虫の幼虫や、水母くらげやその他から成立していることが判った。
と私はもう水母くらげのようになって、筆記が沢山溜まっていることを忘れてしまった。これだから成績が悪いのである。
恩師 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
薔薇のような紅い地色に黄の小菊の花弁を散らしたような肉体を持つ魔性の生物は、渚に泳ぎ寄る水母くらげのように、収縮と拡張の二運動を律動的に繰返すのだ。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
勿論海の動物ばかりで、その中には水母くらげのやうな大きい動物もある。相房州の沿海に浮游して發光するオキ水母は、傘の直徑一寸餘、口腕の長さ二三寸位もある。
光る生物 (旧字旧仮名) / 神田左京(著)
次に國わかく、かべるあぶらの如くして水母くらげなすただよへる時に、葦牙あしかびのごとあがる物に因りて成りませる神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遲うましあしかびひこぢの神。次にあめ常立とこたちの神
プラングトンから、水母くらげから、貝殻から、甲足類から、彼等は人間を目的にしないでやつて来た。
もうすっかりくらくなっていた。近くの海面からイナのねる音がひびいてきた。そして水の中を白坊主のような水母くらげがいくつも浮いて通った。彼女はあたりを見廻した。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
使女A (笑い)水母くらげが躍っているように見えるではござりませぬか。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
船をさえ見ればそうした悪戯わるさをしおるんだから、海坊主ぼうずを見るようなやつです。そういうと頭のつるりとした水母くらげじみた入道らしいが、実際は元気のいい意気な若い医者でね。おもしろいやつだ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
世にからく汐路ただよふ水母くらげにもわれよく似たり住処すみかなければ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
「何、水母くらげにやられたんだ。」
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一、あか水母くらげ
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
薄明りの平野のなかへ、星水母くらげほどに光っては消える遠い市の花火。海と雲と平野のパノラマがいかにも美しいものに思えた。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
無数の掻ききずが所きらわずつけられ、その上、水母くらげの様にうず高くなった乳房の上に、鳥井青年の断末魔のゆがんだ指が、熊手くまでの様に肉深く喰入っていた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
柔かな円っこい弾力性のある、海綿を水母くらげに包んだような而も生温い香りのする、「彼女の肉体」をであった。
理想の女 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
メリー号の実際の指揮者であるクーパー事務長は、無惨むざんにも今や水母くらげに目鼻をつけたような怪物に手どり足どりにされ、舷側げんそくをこえていずれにか連れられていく。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
陸の動物では先づ螢、海の動物では一二の原生動物、水母くらげ、きいとぷてらす、海螢、蝦、螢烏賊、裸鰯位なものだ。それ以外の動植物は總て、色々な文献から請賣する。
光る生物 (旧字旧仮名) / 神田左京(著)
私たちは海へはひると、すぐ水母くらげに刺された。私たちはそんな日は、海で泳がずに、渚に散らばつてゐる、さまざまな綺麗な貝殼を、遠くまで採集しに行つた。その貝殼がもうだいぶ溜つた。
麦藁帽子 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
水母くらげのようにふわふわ漂つている時に、泥の中からあしを出して來るような勢いの物によつて御出現になつた神樣は、ウマシアシカビヒコヂの神といい、次にアメノトコタチの神といいました。
骨あれば世にもさかふを海にすむ水母くらげしもこそうらやましけれ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
水母くらげかな?」
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わしはこの隙見すきみによって、川村の奴が、どれ程深く瑠璃子に溺れているかを知ることが出来た。彼は姦婦の柔かい指先の一触によって、たちまち水母くらげの様になってしまった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
中にはまたこの妖婆アダムウイッチの日記帳にあるごとくそれが鼠からか水母くらげからか知らないが、とにかく他の動物から変じて人間になっているという仲間も少くはないだろうことを予想していた。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
では、どんな種類の子供にそれが出来るかと云うと、直ちに聯想するのは、小さい時から毎日酢を飲ませられて、身体の節々が、水母くらげみたいに自由自在になっている、軽業師の子供です。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
深海の軟体動物にしても、一方にはタコや水母くらげのような相変らず下等なものもいるし、また一方では、人類と同様あるいはそれ以上のスピードで進化した海底超人もいるということになるのである。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何ともえたいの知れぬ、水母くらげの様に無力な怪物が、彼を怖がらせたのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのクーパーも、かれの知識ではどうにも解くことのできない水母くらげのばけものみたいな怪物団の前にひきすえられて、まったく観念のまなこじた。この上、立ちあがって争ってみてもだめだと思った。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いくら揺すぶっても、木島の身体は水母くらげのように手応えがなかった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、身体は水母くらげのように力なく、クナクナとくずおれて行った。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
水母くらげの様な骨無しだったりした。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)