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此處彼處
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こゝかしこ
入りにし人の跡もやと、
此處彼處彷徨へば、とある
岸邊の大なる松の幹を
削りて、
夜目にも
著き數行の文字。月の光に立寄り見れば、南無三寶。
たゞ
左右の
斷崕と
其間を
迂回り
流るゝ
溪水ばかりである。
瀬を
辿つて
奧へ
奧へと
泝るに
連れて、
此處彼處、
舊遊の
澱の
小蔭にはボズさんの
菅笠が
見えるやうである。
此時はすでに
澤山の
船員等は
此處彼處から
船橋の
邊を
指して
集つて
來た。いづれも
愕いた
樣な、
審るやうな
顏で、
今やます/\
接近し
來る
怪の
船の
燈光を
眺めて
居る。
泥だらけな
笹の
葉がぴた/\と
洗はれて、
底が
見えなくなり、
水草の
隱れるに
從うて、
船が
浮上ると、
堤防の
遠方にすく/\
立つて
白い
煙を
吐く
此處彼處の
富家の
煙突が
低くなつて