歌妓うたひめ)” の例文
手足の動かぬを何にかせむ、歌妓うたひめにも売れざるを、塵塚ちりづかに棄つべきが、目ざましき大金おおがねになるぞとて、北叟笑ほくそえみしたりしのみ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
君勇きみゆう』とか『秀香ひでか』とか、みやこ歌妓うたひめめた茶色ちやいろみじか暖簾のれんが、のきわたされて、緋毛氈ひまうせん床几しようぎ背後うしろに、赤前垂あかまへだれをんなが、甲高かんだかこゑしぼつてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
お種の考えることは、この年の若い、親とも言いたいような自分の夫にびる歌妓うたひめのことに落ちて行った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『婦人公論』で呉茂一氏の「ギリシアの歌妓うたひめ」という文章をよんで深く感じた。
沈んでいる船は幾人の歌妓うたひめを載せて来て、ここの浦で顛覆てんぷくしたのであるという。
飮むべしと云ふこれにはげまされて何樓とかへのぼ歌妓うたひめありと聞て木曾の唄をたしかに聞ざるも殘念なればとそれを呼びてうたはすに名古屋の者なれば正眞の木曾調子にはゆかずと謙遜してさて唄ふ其唄
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
既にして夜行太やぎやうた等は、お夏がたぐひ多からぬ美女たるをもて、ふかく歓び、まづその素生すじやうをたづぬるに、勢ひかくの如くなれば、お夏は隠すことを得ず、都の歌妓うたひめなりける由を、あからさまにげしかば
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夢より輕きうすものをかづきて舞へる歌妓うたひめ
一点鐘 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
二人で根岸に隠れているうち時世ときよといい、活計を失って、仲之町の歌妓うたひめとなった、且つ勤め、且つ夫に情を立てて、根岸に通っている内に、蝶吉は出来たので。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
名高い歌妓うたひめ黒繻子くろじゅすえりを掛けて、素足で客を款待もてなしたという父の若い時代を可懐なつかしく思った。しばらく彼は、樺太からふとで難儀したことや、青森の旅舎やどやわずらったことを忘れた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
みよしはだぬぎのみだ姿すがた歌妓うたひめがさすひくに、おくりのいとながれつゝ、花見船はなみぶねぎつるゝ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)