樹間このま)” の例文
樹間このまを洩れてくる折りからの晩春の薄曇りの陽を浴びて、その上にパラパラと木の葉を受けながら、白く侘しそうに石膚を光らせていた表面には
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
叔母は此方こなたを見も返らで、琵琶の行方をみまもりつつ、椽側に立ちたるが、あわれ消残る樹間このまの雪か、緑翠りょくすい暗きあたり白き鸚鵡の見え隠れに、ひぐらし一声鳴きける時
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丁度暗い森の樹間このまを通してれる光のように、聖者の像を描いた高い彩硝子いろガラスの窓が紺青こんじょう、紫、紅、緑の色にその石の柱のところから明るくけて見えていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
既に東天は明け始めている——この島と五十米突メートルの間隔で左手に突出した岬には、松が一面に茂っていて、その樹間このまからあからみかかる東の空が絵のように見える。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
石燈籠が、ずらりと両側に並んで、池の端から、下谷の花柳界のにぎわいの灯が、樹間このまに美しく眺められた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
紅い鳥が、青い樹間このまから不意に飛び出した。形は山鳩に似て、つばさ口嘴くちばしもみな深紅しんくである。案内者に問えば、それは俗に唐辛とうがらしといい、鳴けば必ず雨がふるという。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
また道中どうちゅうどこへまいりましてもれい甲高かんだか霊鳥れいちよう鳴声なきごえ前後ぜんご左右さゆう樹間このまからあめるようにきこえました。
ジョウジ・バアナアド・ショウは、樹間このまの白い小砂利道を踏んで私たちのまえまでくると、そこで立ちどまって、ポケットからはんけちを掴み出してちんと鼻をかんだ。
鹿島の祠は寂寞として日影が樹間このまから線を成して斜にさし込んでゐるのを見たばかりであつた。
船路 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
樹間このまをもる月影に照されたあさ子の、波打つ肉体の顫律せんりつを感じたとき、丹七は二十年の昔、河の中から引き上げられたあさ子の母の死骸に触れた時の感じを思い起してぎょっとした。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
最高楼から先刻通つて来た大椰子林やしりんを越えて市街、港内、対岸の島を眼下に収め、左右両翼をひらいた山の樹間このまに洋人のホテルや住宅の隠見いんけんするのを眺めながら、卓を囲んで涼をれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
庭の樹間このまをさまよひて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
春に遇ひたる樹間このまより
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そのくせ、雨雲が切れて、の光が、さっと樹間このまかられて、音が大分遠のいた頃から、無暗むやみやたらと、精神が爽やかになって、年甲斐としがいもなく、ハシャギたくなる。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
やゝけた午前の日影が樹間このまからさし込んで、それが草の葉の上にチラチラした。林を透して白い帆が二つ三つまで見えるので、そこに川が折れ曲つて流れてゐるのがそれとわかつた。
ひとつのパラソル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
おぼつかなくもかきに沿い、樹間このまをくぐりて辿たどりゆけばここにも墓標新らしき塚の前に、一群ひとむれ男女なんにょが花をささげて回向えこうするを見つ、これも親を失える人か、あるいは妻を失えるか、子を失えるか
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はるか樹間このまの村屋に炊煙すいえん棚曳たなびくあり。べにがら色の出窓に名も知れざる花の土鉢をならべたる農家あり。丘あり橋あり小学校あり。製材所・変圧所・そして製材所。アンテナ・アンテナ・アンテナ。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
しめらへる樹間このまや。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)