柳樽やなぎだる)” の例文
『ははは。そうそうあの句は……おふくろは勿体ないがだましよい、と申す柳樽やなぎだるでした。手島のせがれが聞きかじって居ったのです』
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
座の一隅にはひくい脚を打った大きな折敷おしき柳樽やなぎだる置かれてあった。客が従者じゅうしゃに吊らせて来て此処へおくったものに相違無い。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
知らぬ顔して捨ててはおけまい。古い川柳に座敷の牢屋で。薬飲むにも油断がされぬと。(註にいわく——座敷牢薬をのむに油断せず——柳樽やなぎだる——)
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
掲げ其中より取出とりいだしたる柳樽やなぎだる家内かない喜多留きたるしるしゝは妻をめとるの祝言にやあさ白髮しらがとかい附しは麻の如くにいとすぐとも白髮しらがまで消光くらすなる可し其のほかするめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
斎藤にも柳樽やなぎだるに瓦器盛りの肴を添えて送ることもある。きじねぎを添えてやったこともある。がんをやったこともある。太刀一腰の進物のこともあった。
柳樽やなぎだる」をはじめとする川柳を読んだおかげである。私は、時代小説を志す若い人たちに何時も言う。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
僕年はじめて十八、家婢にたわむる。『柳樽やなぎだる』に曰く「若旦那夜は拝んで昼叱り。」とけだし実景なり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
早速書きましょう、えゝ目録はなんで、帯代が三十両、宜しい、昆布こんぶ白髪しらが、扇、するめ柳樽やなぎだる宜しい
例えば結納の目録に、昆布を「懇婦」または「子生婦」と書し、柳樽やなぎだるを「屋内喜多留」と書し、するめを「寿留女」と書し、たいを「多居」と書するは、みな縁起のよきを祝するのである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
いかがでございます、時々は狂歌、都々逸どどいつ柳樽やなぎだるたぐいをおやりになっては。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
島台しまだい、紅白の縮緬ちりめん柳樽やなぎだる、座敷は彼女の祝い物で一杯だった。家族たちは、毎晩のように、せわしげに、夜をかした。
下頭橋由来 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……フ——ン……この句を知らなけあ川柳を知っているたあ云えないぜ。柳樽やなぎだるの中でもパリパリの名吟なんだ」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
笛のお菊ちゃんは、柳橋の自分の家へ上がって、柳樽やなぎだるへ剣菱を入れ、船へげて来た。斧四郎の顔を見つけると、浜中屋に来ていた芸妓おんなたちは、女将おかみが止めるのもかないで
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柳樽やなぎだるにこんな句があったことを源内は思い出していた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)