ぐい)” の例文
すると、あたかも焼けぐいに火のついたように、失恋の悲しみは、僕の体内で猛然として燃え出した。いわば、僕は失恋の絶頂に達したのである。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ここにはもやぐいとホッ立て小屋がある。毛馬村の船着と見て、七名は、ばらばらとそこへ先廻りして降口おりぐちやくして待っていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百本ぐいから吾妻あずま橋の方角へ、大川端をぶらぶらと歩いてゆくと、向島の桜はまだ青葉にはなり切らないので、遅い花見らしい男や女の群れがときどきに通った。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今度のホルサムが内地の旅は、大体においてこの先着の英国人が測量標ぐいを残したところであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
舟は両国の中程の橋げたに引っ掛けて居たが、本人は土左衛門になって、百本ぐいで見付かった
お前の竿の先の見当の真直まっすぐのところを御覧。そら彼処あすこに古い「出しぐい」がならんで、乱杭らんぐいになっているだろう。その中の一本の杭の横に大きな南京釘ナンキンくぎが打ってあるのが見えるだろう。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お鶴も思いがけなかったか、ぴたりと草履を霜に留めて、透かして差覗さしのぞくようにした。尾花は自然の傍示ぐい、アノ山越えて来イやんせ、この谷辿たどって行かしゃんせ、と二筋道へ枯残る。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
園さんはただちにこれを雲仙名所として、私達の入り込んだ口に標示ぐいを立てるという話で、新焼の名は殺風景であるから何とか命名したい、あなたの名を取って幽芳渓ゆうほうけいとしてはという話も出たが
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
まず橋の手入れとして予備ぐいなどをやって大丈夫という所で、牛車を通したような訳で、手間の掛かること夥多おびただしく、そのため運賃は以前約束した四十円どころでなく、その六、七倍となりました。
真夜中の江戸は、うそのようにヒッソリかんとしています。折りから満潮みちしおとみえまして、ザブーリ、ザブリ、橋ぐいを洗う水音のみ、寒々とさえわたって、杭の根に、真白い水の花がくだけ散っている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
『あれなら、まろも、つなぎぐいの前で、しばし見とれたが、馬観うまみたちも、公卿どもも、口をそろえてやめよというた。四白よつじろとやらは、よくないそうじゃの』
御尤ごもっともで、ってとは申しませんが、それじゃ、これだけの事を申上げて下さい。こちらの旦那様と一緒に沖釣に行ったはずの、志賀内匠様の死骸が、百本ぐいから揚がったと——」
茶店をつて、従是これより小川温泉道と書いた、傍示ぐい沿いて参りまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう疲れ切っているところへ、人間ひとりに取付かれては、牛もずいぶん弱ったろうと思われるが、それでもどうにかこうにか向う河岸まで泳ぎ着いて、百本ぐいの浅い所でぐたりと坐ってしまった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蜂須賀家の船蔵ふなぐらが、すぐ目の前に横たわっているからだ。百本ぐいさくが見え、掘割が見え水門が見える。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近所の船頭をかり集め、松明たいまつを振り照して川筋を捜しましたが、その晩はとうとう解らず、あくる日の朝になって、船頭三吉と、野幇間七平の死骸は、百本ぐいから浅ましい姿で引上げられました。
今年の夏はどういうものか両国の百本ぐいには鯉の寄りがわるい。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このへんでよかろう。なにせこんどのご処刑は首かずが多いのだから、矢来やらいもひろく取らねばならんし、獄門台も渡してある図面どおり幾ツも要する。ここらを中心に、まず囚人めしゅうどのツナギぐい
その翌る朝、一寸法師の玉六のでき死体は、百本ぐいから揚がったのです。
彼のつなぐいを見て、自身立ち寄り
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)