書棚しょだな)” の例文
なかには必要の本を書棚しょだなからとりおろして、胸いっぱいにひろげて、立ちながら調べている人もある。三四郎はうらやましくなった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
といいながら、ふと気がついて、書棚しょだなから在外使臣名簿ざいがいししんめいぼを取り出して、ページをくった。そのうちに、彼は、びっくりしたような声を出した。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分はその後まもなく、秋の夜の電灯の下で、書棚しょだなのすみから樗牛全集をひっぱり出した。五冊そろえて買った本が、今はたった二冊しかない。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かつては彼の胸の血潮をき立たせるようにした幾多の愛読書が、さながらあくびをする静物のように、一ぱいに塵埃ほこりの溜った書棚しょだなの中に並んでいた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たまに灯をつけた書店があると、彼は立寄って書棚しょだなを眺めた。彼ははじめて、この街を訪れた漂泊者のような気持で、ひとりゆっくりと歩いていた。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
マグロアールは彼を好んで大人だいじん様と呼んだ。ある日彼は椅子から立ち上がって、一冊の書物をさがしに図書室に行った。その書物は上方の書棚しょだなにあった。
父の書棚しょだなのあった部分の壁だけが四角に濃い色をしていた。そのすぐそばに西洋暦が昔のままにかけてあった。七月十六日から先ははがされずに残っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
街路に向かった窓の内側にさびしい路次のようになって哲学や宗教や心理に関する書棚しょだなが並んでいる。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
庭を横截よこぎって二人で上がって行くと、書棚しょだな椅子いすや額や、雑書雑誌などの雑然と積み重ねられたなかで、子供の庸太郎が、喫茶台の上と下に積んであるレコオドのなかから
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
重態の病人が自身に来るはずはないから、紅葉の使いのものか、さなくば尾崎違いであろうといぶかりながら店へ出て見ると、せ衰えた紅葉が書棚しょだなの前で書籍をあさっていた。
貞之助が夫婦の寝室になっている二階の八畳へ机や手文庫や書棚しょだなの一部などを運び、邪魔な物は納屋なやや押入へ片附けてしまった跡へ、悦子が看護婦を連れて引き移って行き
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
手紙の草稿を片付ける気力も引き裂く気力もなくて、ただ機械的な習慣から、それを小さな書棚しょだなのある書物にはさんだ。それから熱に震えながら床についた。なぞの言葉は解けた。
書棚しょだなに多く立ち並んでいる金文字、銀文字の書冊が、一つ一つにその作者や主人公の姿になって現われて来て、入れ代り、立ち代り、僕を責めたりあざけったり、めそやしたりする。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
貯金帳をいれてある書棚しょだなの引き出しのかぎを、かけるのを忘れていたら、あなたは、それを見つけて、困るね、と、しんから不機嫌に、私におこごとを言うので、私は、げっそり致しました。
きりぎりす (新字新仮名) / 太宰治(著)
粟野さんはどちらかと言えば借金をことわられた人のように、十円札をポケットへ収めるが早いか、そこそこ辞書じしょや参考書の並んだ書棚しょだなの向うへ退却した。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
書棚しょだなや机の抽出ひきだしに手をかけてみたが、意地悪くも、どの棚も抽出も、ことごとくキチンと錠が懸っていて、いくら彼が力を出したとて開けられそうにもなかった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
婆さんは依然として驚いた眼を皿のようにして一応書棚しょだなを見廻しているが、いくら驚いてもはなはだたしかなもので、すぐに、「ウォーズウォース」を見つけ出す。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それほどでなくとも、少なくも丸善の経営者が書棚しょだなの排列を変える時の参考には確かになるだろう。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と岸本は言って、部屋のすみに置いてある新しい三本立の本箱を愛子にして見せた。本箱とは言っても、三つを一緒に寄せて見たところは書棚しょだなぐらいの大きさがあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三ガ日の間書斎の掃除そうじをしなかったので、今日の午後、夫が散歩に出かけた留守に掃除をしにはいったら、あの水仙すいせんけてある一輪揷いちりんざしの載っている書棚しょだなの前に鍵が落ちていた。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「何でも書物は一生の中に一度役に立てばそれで沢山だ。そういう意味で学術的に貴いものなら何でも集めて置く、」と書棚しょだなの中から気象学会や地震学会の報告書を出して見せた。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
オリヴィエが署名してる間に、彼は書棚しょだなの書冊をのぞき込みながら表題を見て回った。
粟野さんは彼の机の向うに、——と云っても二人の机をへだてた、殺風景さっぷうけい書棚しょだなの向うに全然姿を隠している。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その本が柿丘の書棚しょだなにあることをねて眼をつけておいたものだから、今日は行って借りてこようと思い、麻布本村町あざぶほんむらちょうにあるの柿丘邸に足を向けたのだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は既に例の二階の方の仮の書斎を引払って来て、義雄の起きたりたりしていた奥の部屋に自分の机や書棚しょだなを置いた。その部屋で谷中からたずねて来た兄を客として迎えて見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先生は立って向うの書棚しょだなへ行って、しきりに何かさがし出したが、また例の通りれったそうな声でジェーン、ジェーン、おれのダウデンはどうしたと、婆さんが出て来ないうちから
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてこれに相当する日本語に対してはいっそうはげしいほとんど病的かと思われるほどの嫌悪けんおを感じるようである。それで自分は丸善の書棚しょだなでこの二つの文字を見るとよくP君を思い出すのである。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「もっと探せ。おや、その書棚しょだなのうしろが、おかしいぞ。黄いろい煙が出ている。やっ、くさい!」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)