びん)” の例文
よくいえば、機を見るにびんなやつ。悪くいえば抜け目ない横着者だ。が、よかれあしかれ、彼が二心なしといってきたのは、大きな幸せ。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上自分の心中のわたくしを去ることをかたんずる人程かへつて他人の意中のわたくしあばくにびんなるものである。九郎右衛門は一しよにられたいと云ふ。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
博士は後者の方で、どの芸者をも「あなた」呼ばはりをするので、芸者の方でも「びんさん/\」と近しくなつてゐた。
寶暦はうれきころ當城たうじやうあるじ眞田伊豆守幸豐公さなだいづのかみゆきとよぎみよはひわづかに十五ながら、さいびんに、とくたかく、聰明そうめい敏達びんたつきこたかかりける。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
故上田びん博士もダンテの研究家の一人だつた。しかも「神曲」を飜訳しようとしてゐた。が、博士の遺稿を見れば、イタリア語の原文によつたものではない。
とあるは、柳村、びん博士のことである。その他に一葉の周囲の男性は、戸川秋骨とがわしゅうこつ、島崎藤村、星野天知てんち、関如来にょらい正直正太夫しょうじきしょうだゆう、村上浪六なみろくの諸氏が足近かった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「それぁ私だって、まるくおさまったら、これに越した事は、ないと思っていたさ。」叔母さんも、さすがに機を見るにびんである。くるりと態度をかえていた。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
露伴、藤村とうそん、鏡花、秋声等、昭和時代まで生存していた諸作家は別として、僅かに一、二回の面識があった人々は、この外に鴎外おうがいびん魯庵ろあん天外てんがい泡鳴ほうめい青果せいか武郎たけおくらいなものである。
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
春以来、心をこめて、うて来たかいがあり、御承知の、武蔵青毛むさしあおの四歳ごま。秋にのぞんで、ひときわ駿足しゅんそくびんをあらわして来たかに見らるる。
「某新聞記者の西洋の詩のことを尋ねた時、芭蕉はその記者にかう答へた。——西洋の詩にくはしいのは京都の上田びんである。彼の常に云ふ所によれば、象徴派の詩人の作品は甚だ幽幻を極めてゐる。」
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と、なんら明察のびんもないその凡人なみな感じ方や赤橋守時の処置ぶりなど見て、ひそかな慨嘆がいたんを胸につつむらしい不平顔もかなり目立った。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この二人の運命が刹那せつなに、火! という不安な旋風せんぷうに結びついて万吉のびんな神経へ、不吉な予覚よかくを与えた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楠木正季まさすえは、機をつかむにびんだった。大江時親流の兵法をよく駆使していたともいえようか。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)